秀麗畏怖極道は甘すぎる

7話 俺は寂しかってんけどな

この数日間、凛音はさくに必要以上に絡めなかった。

仕事が立て込み、朝から晩まで出ずっぱりだったのだ。
昼間は繁華街を回りながら情報を集め、夜は夜で接待という名の腹の探り合い。

そしてようやく今夜、久しぶりに事務所に顔を出せる時間ができた。

時刻は夜の九時。
昼間の業務を終えた構成員達はまばらに残っている程度で、建物の中は静まり返っていた。

真っ先にさくを探す。
会議室、資料室、休憩所。足早に見て回って見つけたのは裏口の喫煙所だった。
自販機の横でお茶を飲んでいる小さな背中。

「さーく。」

背後からぬっと顔を出した。

驚いて肩が少し震えた。

「びっくりした…。」

さくを見下ろして、凛音の顔がにんまりと歪んだ。

「はは、ええリアクションやなぁ。」

数日ぶりの再会だった。
凛音の目の下にはうっすらと隈が浮いており、ここ数日の激務の痕跡が滲んでいた。

だがそんな疲労など微塵も感じさせない笑みで、当然のようにさくの隣に並ぶ。

自販機に背を預けてポケットに手を突っ込みながら横目でさくを観察する。

数日間見なかっただけで飢餓感が凄い。


「俺おらん間、寂しかった?」

「…へ?寂しくないですよ。」

何言ってるんだこの人。という表情をする。

即答。しかもポカン顔。嘘をついている気配すらない。本気で何も感じていなかったらしい。

凛音のプライドがミシッと音を立て、二つの感情がせめぎ合った。

一つは「寂しくない」と言われた悔しさ。
もう一つは、正直にそう言えるこの女の潔さへの惚れ直し。

結局後者が勝った。惚れた方が負けとはよく言ったものだ。
 
「……ふーん。」

声のトーンが若干低い。


「俺は寂しかってんけどな。」

「……。」

数秒の沈黙の間にさくは考えた。

「まぁ…、いつも私にちょっかいかけてきてて、忙しくてそれが出来なかったとしたら、凛音さん的には寂しいんですかね…?わかんないですけど。」

冷静に分析された。まるで他人事のように。

ちょっかいをかける行為が出来なかったから寂しいのか、という推測。
間違ってはいない。間違ってはいないが。

凛音の本心の意味とは違う。小さくため息をついて、

「せやで。俺はお前に構えへんで寂しかってん。」

開き直った。

「お前はほんまに冷たいなぁ。先輩が忙しゅうしてたのに何も思わんの?」

さくは凛音をじーっと見る。

「確かに凛音さんここ数日忙しそうですよね。隈がすごいです。」

そう言いながら無意識に凛音の目元を撫でた。

凛音の脳が停止して全身が石のように固まった。

切れ長の淡いブルーの目は見開かれ、呼吸すら忘れている。

ヤクザ組織でナンバー2を張る男、つい数日前に5人を素手で叩きのめした戦闘狂、が、162センチの新人構成員の無意識の一撫でで完全に機能を停止していた。
< 7 / 11 >

この作品をシェア

pagetop