トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
重たい沈黙が落ちる。

赤く点灯したままの手術中ランプ。

誰も、その光から目を逸らせなかった。

俺は二人へ視線を向ける。

「……ご家族は?」

その言葉に、女の子はハッとしたように顔を上げた。

涙で濡れた目のまま、必死に答える。

「紗凪の両親、海外勤務で……」

声が掠れる。

「連絡は入ってると思うんですけど、多分すぐには来れません……」

その瞬間。

周囲の空気がまた少し沈んだ。

今ここにいるのは。

紗凪が一番信頼してる人たちなんやろな。

俺は小さく頷く。

「……分かりました」

すると。

さっきまで涙を堪えるだけやった梓さんの空気が、少し変わる。

震えてた手をぎゅっと握って。

まっすぐ俺を見る。

「……受傷時、どんな状況だったんですか」

その声に、周囲のスタッフも少し驚いた顔をした。

梓さんは続ける。

「受傷機転は?」

「初期バイタルはどうでした?」

「現場で意識は?」

涙声なのに。

質問だけは的確やった。

俺は思わず聞き返す。

「……医療者ですか?」

梓さんが小さく頷く。

「東京中央大学病院の救命ナースです」

その瞬間、ようやく全部繋がった。

紗凪ちゃんの親友。

同じ救急。

だから、こんな状況でも情報を聞こうとしてる。

感情だけで来てへん。

“状況を理解しよう”としてる顔やった。

俺は静かに説明する。

「工事現場での事故です」

「資材落下」

「後輩を庇って直撃受けました」

その瞬間。梓さんの目が大きく揺れた。

でも、逸らさへん。

「……意識は?」

「受傷直後はありました」

「ただ、そのあと急速にレベル落ちてます」

「SpO₂も低下」

「胸部外傷がかなり強い」

そこまで聞いた時点で梓さんの顔色が変わった。

ERナースやから分かるんやろ。

この情報が、どれだけ危険か。

俺は続ける。

「肺挫傷、多発肋骨骨折」

「腹腔内出血もあります」

「今もオペ継続中です」

梓さんの喉が小さく震える。

「……そんな」

声が掠れた。

「紗凪、そんな状態で……」

そのまま口元を押さえる。

涙がまた溢れた。

まだ聞こうとする。

「……循環は?」

「大量輸血入ってます」

「ECMO導入も視野に入ってます」

その瞬間。

梓さんの目から、堪えきれなかった涙が一気に零れ落ちた。

ERで働いてる人間なら分かる。

ECMO。

それが意味する危機的状況。

助かるかどうかの瀬戸際。

梓さんはその場で崩れそうになりながら、小さく首を振った。

「……やだ……」

「紗凪……」

その声が痛いくらい弱かった。

その横で。

佐野陽貴は、ずっと黙ったまま立っていた。

専門的な話は全部理解できてへんと思う。

でも。

“命が危ない”

それだけは、嫌でも伝わってる。

帽子の影で表情は見えへん。

けど。

握り締めた拳だけが、小さく震えていた。
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