声、好きです。……って告白じゃなかったのに!?

「……もう、そんな可愛い反応しないで。誰にも触れさせたくなくなる」


低く、熱を孕んだ声が鼓膜を震わせ、脳に直接響く。
そのあまりに独占欲の強い言葉に、私の心臓はもはや限界まで打ち鳴らされていた。


「私……もう、キャパオーバーです……っ……」


熱くなった顔を覆い、蚊の鳴くような声で絞り出すのが精一杯。好きで、憧れで、ただその声を聴いているだけで幸せだったはずなのに。

今の彼は、私を優しく包み込むどころか、その甘い言葉でじわじわと追い詰めてくる。


「キャパオーバー?可愛い。ねえ、そんなに余裕ないの?……俺、まだ何もしてないよ?」


楽しげに、けれど確実な熱を持って囁く彼。
その一言一言に、私の理性は音を立てて崩れていく。

画面越しの推しだったはずの彼は、今、この瞬間、たった一人の「男」として私の心を支配していた。

でも、だめだ。
彼は何千人ものファンに愛される配信者で、私はその中の一人にすぎない、ただのリスナー。

こんなふうに、簡単に一線を超えてしまうようなことは、絶対にいけない。


「……綾人くん、だめ……です」

「え?」

「私はただの、リスナーの一人にすぎませんっ……。だから、そんなこと言っちゃだめです……」


震える声で精一杯の拒絶を口にする。けれど、彼は動じるどころか、さらに踏み込んだ言葉を投げかけてきた。


「……会って直接話そう。まな、前に自分の住んでるところ教えてくれたよね。桜公園って家から近い?」


その瞬間、心臓が跳ね上がった。
いくら大好きな推しとはいえ、配信中の雑談で軽率に自分の住んでいる場所を明かしてしまった、過去の自分を全力で殴りたい。


「な、なんで、それを……っ」

「まなに関することは全部覚えてるよ。明日、夜勤明けでそのまま向かうから。8時頃、そこで待っててくれる?」


逃げ道を塞ぐような、優しくて、けれど有無を言わせない響き。画面の向こう側の存在だったはずの彼が、今、確実に私の日常へと足を踏み入れようとしていた。
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