そのほくろに恋をした
あなたとほくろを捕まえに来ました!!
どうしよう。
勢いで社長室に来たけど、何て言えばいい?
好きです? ──恥ずか死ぬ。
あなたのほくろにロックオン? ──ふざけすぎてる。
何からどう伝えたらいいのか……。
ドアの前をうろうろする私は、さしずめただの不審者だ。
「──何をしている」
「うわっ!?」
後ろから声がして飛び上がり、振り返ると社長がいた。
「しゃ、社長……っ!!」
だめだ。
見ただけで胸が苦しい。
そんな私の情けない顔を見るなり、社長はぐっと眉を寄せた。
「……泣いたのか」
「泣いてません!!」
「目が赤い」
「うっ……」
気まずい。
社長は小さくため息をつくと、ドアを開けた。
「入れ。話があるんだろ」
拒否を許さぬその圧に、私はおとなしく社長室へ入っていった。
***
「……記事の件、誤解をさせてすまなかった。でもあれは本当に──」
「社長。私、最初は本当にほくろしか見てなかったです」
部屋に入るなり切羽詰まった様子で話しだす社長を遮って、私は自分の言葉を重ねる。
覚悟が、鈍ってしまわないうちに。
「でも最近は違って……」
もう、逃げちゃだめだ。
「社長が笑うと嬉しいし、優しくされるとくすぐったくて、避けられたら苦しかったです。だから──」
私は社長を見上げ、はっきりと、その言葉を継げた。
「あなたを──捕まえにきました!!」
「……」
あれ……失敗した?
やっぱり“捕まえにきました”はおかしかった?
私が焦り始めたその時、社長がふっと笑った。
優しい笑い方。
「普通そこは“好きです”だろ」
「うぐっ」
口をつぐんだヘタレな私に、社長はゆっくり近づいて、静かに口を開く。
「俺はずっと、自分の顔や立場でしか見られることがなかった。……でも、君だけだった」
社長の指先が、そっと自分の口元に触れる。
「ピンポイントでこれを見てたのは」
「だって、本当に素敵、だったから……」
漏れ出た本音に、社長が困ったように笑う。
次の瞬間、社長の手が私の頬に触れた。
「今はもう、君に見られるのは嫌じゃない。むしろ──」
社長が少しだけ顔を寄せ、そっと囁く。
「──君以外に、見せたくない」
甘く囁かれたその言葉に、頭が真っ白になった、刹那──。
「しゃちょ──っ……」
最後まで放つことのできなかった言葉は、唇に落ちた柔らかい感触に飲み込まれていった。
ほんの一瞬の、優しい熱。
ソレが離れたあとも、私はしばらく動けないまま。
社長はそんな私を見て、苦笑いした。
「……そんな顔するな」
「む、無理……」
「捕まえに来たんだろう?」
「そ、それはそうですけど……っ」
顔が熱い。
もう思考回路なんてとっくにショートしてる。
パニック状態の私に、社長は楽しそうに目を細めた。
「責任取れ」
「ええっ!?」
意味が分からない。
責任って!?
でもその笑顔を見た瞬間、私は思った。
捕まったのは、私かもしれない、と──。
END


