そのほくろに恋をした
恋していたのは──
その日、私は資料を秘書課へ届けに行っていた。
渡したら終わり、そう思っていたのに、少し開いた扉の隙間から──見てしまった。
室内には社長と綾音さんの二人だけ。
距離は近く、綾音さんが社長のネクタイを直していて、まるでドラマのワンシーンみたい。
美男美女だ。
なんだろう、胸が、変。
息苦しい。
え、なにこれ。
風邪?
「……雛形さん?」
綾音さんがこちらを見る。
私は慌てて資料を差し出した。
「し、資料です!!」
社長が振り返って、一瞬目が合ったけれど、私はすぐ逸らしてしまった。
見られない。
だめだ。なんか……変。
「失礼しましたぁぁっ!!」
そう言うと私は、逃げるようにその場を離れた。
「はぁっ、はぁっ……」
廊下を歩きながら、自分の胸を押さえる。
苦しい。
なんで?
社長が誰といても私には関係ないのに。
だって私は、ほくろが好きなだけで――。
そこまで考えて、足が止まる。
……違う。
ほくろじゃない。
社長を思い浮かべるだけで、胸がぎゅっと締めつけられる。
そこまで考えてようやく、分かった気がした。
「あぁ、私……社長のこと……」