そのほくろに恋をした
スキャンダル
「雪ちゃん見て!!」
朝から社員たちがざわついている中、先輩に手渡されたのは1冊の週刊誌。
その表紙を見て──時が止まった。
『若き財閥社長・水川蓮 極秘婚約へ』
そんな見出しと共に、豪華なホテルから出てくる社長と綾音さんの写真。
「……え」
頭が真っ白になって、胸が、重く痛む。
「片川さん財閥令嬢だしねぇ」
「美男美女だもんねぇ」
笑えない。
視界が、ぼやける。
だめだ……無理。
耳を塞ぎそうになった、その時。
騒がしかったフロアがしん、と静まりかえって、顔を上げた先には──。
「社長……」
なんだろう。あの写真を見たあとだからか、なんだか遠く感じる。
と、社長の鋭い瞳がこちらを捕え、一瞬だけ目が合った。
「っ……!!」
とっさに目をそらすと、社長は何も言わず、そのまま通り過ぎていく。
やだ──、むり。
***
気づけば私は、逃げるように屋上へ来ていた。
頭の中がぐちゃぐちゃ。
もうやだ。
「……何やってんだろ」
瞳にたまった涙が零れそうになった、その時──。
「雛形」
名を呼ばれて振り返ると、そこに彼がいた。
「何で……」
私が慌てて目を擦ると、社長は静かに近づいてくる。
「記事、見たか」
「……はい」
「誤解だ」
「へ?」
繰り出された言葉に、私は瞬きを繰り返す。
「婚約なんてない」
「……そう、なんですか」
「週刊誌が勝手に書いただけで、取引先との会合帰りの写真だ」
それを聞いて胸が少し軽くなるのに、素直に喜ぶ事ができなかった。
だって二人、お似合いだったもの。
美男美女で家柄も良くて──。
それに比べて私は……ほくろで騒ぐ変人だ。
「でも……お似合い、です」
笑顔を作ろうとしても作り切れなくて、ぽつりと漏れ出た言葉に、社長の顔が険しくなった。
「お前はそれでいいのか」
「え?」
「お前は、それでいいのかと聞いてる」
見上げれば、どこか苦しそうな社長の瞳。
でも今の私は、どう答えるのがいいのかわからない。
「……仕事戻ります」
視線を逸らして、逃げるようにその場を離れる。
背中に社長の視線を感じたけれど、私が振り返ることはなかった。