大正ハイカラ娘・朝霧すみれと新聞記者小田切レン~消えた花嫁の謎を解く~
第2話 小田切さんに会うとなぜか事件にまきこまれてしまうわ
洋館に着くと――。
門前には、落ち着かない空気が漂っていた。
制服姿の警察官が出入りし、
使用人たちは声をひそめている。
誰もが不安そうで、
互いに視線を合わせようとしない。
胸が、ざわりと騒いだ。
……やっぱり。
嫌な予感が当たったのかもしれない。
私は若いメイドに声をかけた。
白いエプロンの前で手を組み、
そわそわと落ち着かない様子だ。
「ねえ、花嫁さまはどちらに?」
若いメイドは、ぎゅっと唇を結ぶ。
何かを言いかけた――その時。
「朝霧さんですね」
後ろから、静かな声。
白髪混じりのメイドが、
すっと姿を現した。
整ったヘッドドレス。
姿勢のよさ。
一目でわかる。
この屋敷の空気を束ねる人だ。
きっと主任メイド。
「お待ちしておりました」
けれど。
その声は、ひどく沈んでいた。
「実は……昨夜から、お嬢様のお姿が見えないのでございます」
――え。
胸が、どくりと鳴る。
隣で小田切さんの空気も変わった。
記者の顔。
だけど――。
なぜか私を気づかうように、
少しだけ前に立ってくれている。
……ずるい。
そういうところ。
「どうぞ、こちらへ」
主任メイドに案内され、
私たちは花嫁の部屋へ向かった。
当然のように、
小田切さんもついて来る。
警察官がちらりとこちらを見る。
けれど、何も言わずに通してくれた。
花嫁の部屋では――。
奥さまが椅子に座り、
すすり泣いていた。
執事がそっと紅茶を差し出している。
「奥様、少しだけでもお飲みください。何か口に入れませんと倒れてしまいます」
奥さまは震える手でカップを受け取り、
ふちにそっと口をつけた。
見ているこちらまで胸が苦しくなる。
結婚式当日に娘が消えるなんて――。
そんなこと、ある?
執事が小声で言った。
「かず子様も、そろそろいらっしゃるかと」
すると奥さまが、
涙に濡れた顔を上げた。
「あの子が来るものですか」
悔しそうに唇を震わせる。
「妹の結婚式なのに、絶対に出ないと言った薄情な子よ」
その時。
主任メイドが静かに声をかけた。
「奥様。洋裁店から朝霧さんがいらっしゃいました。例の件を、お伝えしてもよろしいでしょうか」
「……ええ」
奥さまが弱々しくうなずく。
主任メイドは周囲をうかがうように視線を動かし、
低い声で告げた。
「朝霧さん。ここに掛けてあったドレスが無いのです」
私は息をのんだ。
「先日、朝霧さんがお届けくださった、あの花嫁衣装です」
――ドレスが、ない?
「お嬢様がおひとりで着て、お出かけになったとしか思えません」
奥さまは顔を覆い、
肩を震わせている。
……変だわ。
なにか、おかしい。
私は勇気を出して口を開いた。
「失礼ですが、申し上げます」
部屋の空気がぴたりと止まる。
「奥様。あのドレスは――ひとりでは着られません」
「え……?」
主任メイドが静かに続けた。
「ええ。いつもは私が着替えをお手伝いします」
そう言って、
ひとりの若いメイドを指した。
その子は、おびえたように震えている。
「ですが、今回はお手伝いしておりません。……そうね?」
若いメイドは、
白いエプロンを強く握りしめた。
「そ、そ、そうなんです……!」
今にも泣きそうな顔。
「わたし、お着替えを手伝っていません……!」
声が震えている。
「他の皆にも聞きました。でも、誰も手伝っていないんです」
長い沈黙。
部屋の空気が重くなる。
私は、静かに告げた。
「あのドレスは、私がデザインして、縫ったものです」
自然と声に力が入る。
「背中はリボンで編み上げる仕様です」
一呼吸。
「ひとりで着ることは――絶対に不可能です」
しん――。
誰も何も言わない。
奥さまはカップを持ったまま固まっている。
主任メイドは、
そっと奥さまの背をさすった。
そして――。
突然。
「……っ」
若いメイドが、
私の手をぎゅっと掴んだ。
「きゃっ」
そのまま、
よろけるように廊下へ連れ出される。
小さな肩が震えていた。
そして。
誰にも聞かれないような声で言った。
「……誰にも聞かれたくない話があるんです」
涙目で、
まっすぐ私を見る。
「朝霧様にだけ、聞いていただきたいんです」
すると――。
「ボクも同席していいだろうか」
なぜか。
当然の顔をして、
小田切さんまでついてきていた。
近い。
顔、近い。
若いメイドは慌てて首を振る。
「だ、だめです! 朝霧さんだけです……!」
「奥様や他のメイドには絶対知られたくないんです!」
「よかろう」
小田切さんが、すぐ言った。
「誰にも言わないと誓うよ」
……え。
まさか引き下がらないの?
「ボクもうまくやる。任せてくれ」
うわ。
強引。
でも――。
なぜか、
この人が言うと大丈夫な気がしてしまう。
……ずるい。
門前には、落ち着かない空気が漂っていた。
制服姿の警察官が出入りし、
使用人たちは声をひそめている。
誰もが不安そうで、
互いに視線を合わせようとしない。
胸が、ざわりと騒いだ。
……やっぱり。
嫌な予感が当たったのかもしれない。
私は若いメイドに声をかけた。
白いエプロンの前で手を組み、
そわそわと落ち着かない様子だ。
「ねえ、花嫁さまはどちらに?」
若いメイドは、ぎゅっと唇を結ぶ。
何かを言いかけた――その時。
「朝霧さんですね」
後ろから、静かな声。
白髪混じりのメイドが、
すっと姿を現した。
整ったヘッドドレス。
姿勢のよさ。
一目でわかる。
この屋敷の空気を束ねる人だ。
きっと主任メイド。
「お待ちしておりました」
けれど。
その声は、ひどく沈んでいた。
「実は……昨夜から、お嬢様のお姿が見えないのでございます」
――え。
胸が、どくりと鳴る。
隣で小田切さんの空気も変わった。
記者の顔。
だけど――。
なぜか私を気づかうように、
少しだけ前に立ってくれている。
……ずるい。
そういうところ。
「どうぞ、こちらへ」
主任メイドに案内され、
私たちは花嫁の部屋へ向かった。
当然のように、
小田切さんもついて来る。
警察官がちらりとこちらを見る。
けれど、何も言わずに通してくれた。
花嫁の部屋では――。
奥さまが椅子に座り、
すすり泣いていた。
執事がそっと紅茶を差し出している。
「奥様、少しだけでもお飲みください。何か口に入れませんと倒れてしまいます」
奥さまは震える手でカップを受け取り、
ふちにそっと口をつけた。
見ているこちらまで胸が苦しくなる。
結婚式当日に娘が消えるなんて――。
そんなこと、ある?
執事が小声で言った。
「かず子様も、そろそろいらっしゃるかと」
すると奥さまが、
涙に濡れた顔を上げた。
「あの子が来るものですか」
悔しそうに唇を震わせる。
「妹の結婚式なのに、絶対に出ないと言った薄情な子よ」
その時。
主任メイドが静かに声をかけた。
「奥様。洋裁店から朝霧さんがいらっしゃいました。例の件を、お伝えしてもよろしいでしょうか」
「……ええ」
奥さまが弱々しくうなずく。
主任メイドは周囲をうかがうように視線を動かし、
低い声で告げた。
「朝霧さん。ここに掛けてあったドレスが無いのです」
私は息をのんだ。
「先日、朝霧さんがお届けくださった、あの花嫁衣装です」
――ドレスが、ない?
「お嬢様がおひとりで着て、お出かけになったとしか思えません」
奥さまは顔を覆い、
肩を震わせている。
……変だわ。
なにか、おかしい。
私は勇気を出して口を開いた。
「失礼ですが、申し上げます」
部屋の空気がぴたりと止まる。
「奥様。あのドレスは――ひとりでは着られません」
「え……?」
主任メイドが静かに続けた。
「ええ。いつもは私が着替えをお手伝いします」
そう言って、
ひとりの若いメイドを指した。
その子は、おびえたように震えている。
「ですが、今回はお手伝いしておりません。……そうね?」
若いメイドは、
白いエプロンを強く握りしめた。
「そ、そ、そうなんです……!」
今にも泣きそうな顔。
「わたし、お着替えを手伝っていません……!」
声が震えている。
「他の皆にも聞きました。でも、誰も手伝っていないんです」
長い沈黙。
部屋の空気が重くなる。
私は、静かに告げた。
「あのドレスは、私がデザインして、縫ったものです」
自然と声に力が入る。
「背中はリボンで編み上げる仕様です」
一呼吸。
「ひとりで着ることは――絶対に不可能です」
しん――。
誰も何も言わない。
奥さまはカップを持ったまま固まっている。
主任メイドは、
そっと奥さまの背をさすった。
そして――。
突然。
「……っ」
若いメイドが、
私の手をぎゅっと掴んだ。
「きゃっ」
そのまま、
よろけるように廊下へ連れ出される。
小さな肩が震えていた。
そして。
誰にも聞かれないような声で言った。
「……誰にも聞かれたくない話があるんです」
涙目で、
まっすぐ私を見る。
「朝霧様にだけ、聞いていただきたいんです」
すると――。
「ボクも同席していいだろうか」
なぜか。
当然の顔をして、
小田切さんまでついてきていた。
近い。
顔、近い。
若いメイドは慌てて首を振る。
「だ、だめです! 朝霧さんだけです……!」
「奥様や他のメイドには絶対知られたくないんです!」
「よかろう」
小田切さんが、すぐ言った。
「誰にも言わないと誓うよ」
……え。
まさか引き下がらないの?
「ボクもうまくやる。任せてくれ」
うわ。
強引。
でも――。
なぜか、
この人が言うと大丈夫な気がしてしまう。
……ずるい。