大正ハイカラ娘・朝霧すみれと新聞記者小田切レン~消えた花嫁の謎を解く~
第4話 洋裁師として推理しますわ
霧の中。
私と小田切さんは、
並んで歩いていた。
桟橋へ続く石畳は、
どこまでも白くぼやけている。
波音は静か。
風もほとんどない。
ただ、霧だけが、
生き物みたいにゆっくり流れていた。
なんだか――。
世界から切り離されたみたい。
そんな不思議な朝だった。
「怖いかい?」
隣から、
低い声。
小田切さんが、
ちらりと私を見る。
「まさか」
私は背筋を伸ばした。
「洋裁師は、怪談くらいで怖がりませんわ」
「へえ?」
少し笑う。
「じゃあ、もし海の精霊が現れたら?」
「ドレスの着こなしを直して差し上げます」
一瞬。
小田切さんが吹き出した。
「ははっ」
その笑顔に、
少しだけ胸が鳴る。
……ずるい。
格好いい人って、
笑うと反則。
その時――。
小田切さんが急に足を止めた。
「……あれは?」
低い声。
視線の先。
桟橋の端に、
白いものが見える。
霧の中で、
ぼんやり揺れていた。
――白い女。
一瞬、
本当にそう思った。
ぞくりと背中が冷える。
「まさか……」
私は小さく息を呑む。
小田切さんの表情が変わった。
「行こう」
真剣な声。
「ボクの後ろに」
そして、
自然に私の前へ出る。
……守ろうとしてくれてる。
胸が少しだけ熱くなる。
私たちは駆け出した。
桟橋の木の板が、
ぎしっ、ぎしっと鳴る。
霧が揺れる。
潮の匂い。
白い影が、
少しずつ近づいてくる。
そして――。
「……!」
私は立ち止まった。
そこにあったのは。
花嫁のドレスだった。
白いレース。
真珠の飾り。
そして、片方だけの手袋。
霧の中に、
まるで誰かを待つみたいに広げられている。
あまりにも静かで。
あまりにも綺麗で。
本当に――。
《港の白い女》の伝説そのものだった。
「これは……」
私は膝をつく。
指先が少し震えた。
「間違いありません」
そっと、
ドレスに触れる。
「私が縫った花嫁衣装です」
小田切さんが、
しゃがみ込んだ。
「本当に?」
「ええ」
私はうなずく。
「この刺繍も、このレースも、私が選びました」
心臓が早い。
胸騒ぎが止まらない。
だって。
こんなところに、
花嫁のドレスだけがあるなんて。
まるで。
本当に海へ連れていかれたみたいじゃない。
「……港の白い女」
私は思わずつぶやく。
花嫁は、
海の精霊に誘われた。
そして。
白い衣類だけが残された。
噂通り。
あまりにも、
噂通りすぎる。
その時。
「朝霧すみれくん」
小田切さんの声。
静かだけど、
少し鋭い。
「怪談で終わらせるな」
私は顔を上げた。
彼の目が、
記者の顔になっている。
「事実を拾い集めろ」
低い声。
「確か――数年前にも、似た失踪事件があった」
手帳を開く。
「この桟橋だ」
ページをめくる音。
「当時も《港の白い女》の噂になった」
「女が海へ連れて行かれた、と」
私は息を呑む。
「でも――」
小田切さんが続ける。
「後からわかった」
その声が低くなる。
「花嫁には、多額の保険金がかけられていた」
「……え?」
「遺体も見つからないまま、死亡扱いになったんだ」
私は言葉を失う。
そんな。
そんなことって。
「ボクは思う」
彼がドレスを見る。
「これは怪異なんかじゃない」
霧の向こうを見る。
「仕組まれた犯罪だ」
低い声。
「《港の白い女》の伝説を利用した――殺人かもしれない」
殺人。
その言葉に、
心臓が跳ねた。
でも――。
私は、
ドレスを見つめた。
なにかがおかしい。
洋裁師として、
どうしても気になる。
「小田切さん」
私は静かに言った。
「少しだけ……見てもいいですか?」
「もちろん」
彼が即答する。
そして、
そっと自分の外套を私の肩にかけた。
「冷える」
……っ。
近い。
しかも自然。
この人、
こういうの反則じゃない?
「む、むやみに優しくしないでください」
思わず言う。
「勘違いします」
一瞬。
小田切さんが目を丸くした。
そして。
少しだけ笑った。
「困るな」
低い声。
「ボクは、少しは勘違いしてほしいんだけど」
…………。
え?
えええ?
なに今の。
心臓に悪い。
悪すぎる。
私は慌てて、
ドレスへ顔を向けた。
……落ち着け。
仕事。
今は仕事!
私は深呼吸して、
白いドレスを手に取った。
「まず――裾を見ます」
洋裁師としての目が、
静かに動き始める。
私と小田切さんは、
並んで歩いていた。
桟橋へ続く石畳は、
どこまでも白くぼやけている。
波音は静か。
風もほとんどない。
ただ、霧だけが、
生き物みたいにゆっくり流れていた。
なんだか――。
世界から切り離されたみたい。
そんな不思議な朝だった。
「怖いかい?」
隣から、
低い声。
小田切さんが、
ちらりと私を見る。
「まさか」
私は背筋を伸ばした。
「洋裁師は、怪談くらいで怖がりませんわ」
「へえ?」
少し笑う。
「じゃあ、もし海の精霊が現れたら?」
「ドレスの着こなしを直して差し上げます」
一瞬。
小田切さんが吹き出した。
「ははっ」
その笑顔に、
少しだけ胸が鳴る。
……ずるい。
格好いい人って、
笑うと反則。
その時――。
小田切さんが急に足を止めた。
「……あれは?」
低い声。
視線の先。
桟橋の端に、
白いものが見える。
霧の中で、
ぼんやり揺れていた。
――白い女。
一瞬、
本当にそう思った。
ぞくりと背中が冷える。
「まさか……」
私は小さく息を呑む。
小田切さんの表情が変わった。
「行こう」
真剣な声。
「ボクの後ろに」
そして、
自然に私の前へ出る。
……守ろうとしてくれてる。
胸が少しだけ熱くなる。
私たちは駆け出した。
桟橋の木の板が、
ぎしっ、ぎしっと鳴る。
霧が揺れる。
潮の匂い。
白い影が、
少しずつ近づいてくる。
そして――。
「……!」
私は立ち止まった。
そこにあったのは。
花嫁のドレスだった。
白いレース。
真珠の飾り。
そして、片方だけの手袋。
霧の中に、
まるで誰かを待つみたいに広げられている。
あまりにも静かで。
あまりにも綺麗で。
本当に――。
《港の白い女》の伝説そのものだった。
「これは……」
私は膝をつく。
指先が少し震えた。
「間違いありません」
そっと、
ドレスに触れる。
「私が縫った花嫁衣装です」
小田切さんが、
しゃがみ込んだ。
「本当に?」
「ええ」
私はうなずく。
「この刺繍も、このレースも、私が選びました」
心臓が早い。
胸騒ぎが止まらない。
だって。
こんなところに、
花嫁のドレスだけがあるなんて。
まるで。
本当に海へ連れていかれたみたいじゃない。
「……港の白い女」
私は思わずつぶやく。
花嫁は、
海の精霊に誘われた。
そして。
白い衣類だけが残された。
噂通り。
あまりにも、
噂通りすぎる。
その時。
「朝霧すみれくん」
小田切さんの声。
静かだけど、
少し鋭い。
「怪談で終わらせるな」
私は顔を上げた。
彼の目が、
記者の顔になっている。
「事実を拾い集めろ」
低い声。
「確か――数年前にも、似た失踪事件があった」
手帳を開く。
「この桟橋だ」
ページをめくる音。
「当時も《港の白い女》の噂になった」
「女が海へ連れて行かれた、と」
私は息を呑む。
「でも――」
小田切さんが続ける。
「後からわかった」
その声が低くなる。
「花嫁には、多額の保険金がかけられていた」
「……え?」
「遺体も見つからないまま、死亡扱いになったんだ」
私は言葉を失う。
そんな。
そんなことって。
「ボクは思う」
彼がドレスを見る。
「これは怪異なんかじゃない」
霧の向こうを見る。
「仕組まれた犯罪だ」
低い声。
「《港の白い女》の伝説を利用した――殺人かもしれない」
殺人。
その言葉に、
心臓が跳ねた。
でも――。
私は、
ドレスを見つめた。
なにかがおかしい。
洋裁師として、
どうしても気になる。
「小田切さん」
私は静かに言った。
「少しだけ……見てもいいですか?」
「もちろん」
彼が即答する。
そして、
そっと自分の外套を私の肩にかけた。
「冷える」
……っ。
近い。
しかも自然。
この人、
こういうの反則じゃない?
「む、むやみに優しくしないでください」
思わず言う。
「勘違いします」
一瞬。
小田切さんが目を丸くした。
そして。
少しだけ笑った。
「困るな」
低い声。
「ボクは、少しは勘違いしてほしいんだけど」
…………。
え?
えええ?
なに今の。
心臓に悪い。
悪すぎる。
私は慌てて、
ドレスへ顔を向けた。
……落ち着け。
仕事。
今は仕事!
私は深呼吸して、
白いドレスを手に取った。
「まず――裾を見ます」
洋裁師としての目が、
静かに動き始める。