悪魔の娘が帰還するまでーささやかな復讐と聖女の称号を添えてー

第二十章:干しリンゴ

 体が重い。心臓が鼓動する度に痛む。

 シャーロットが何度も呼んだ医師は、幾度診てもオリヴィアの不調の原因が分からず、そして無理を続けるオリヴィアに苦言を呈した。

 (仰る通りね…、この方からすれば具合が悪いのに動き回って、その癖悪化したら医師を呼ぶんだから、面倒な患者この上ないわ)

 でもーー。この身体は人間界に置いていくものだ。
(この世界で、ずっと長生きする人たちの身体とは違うから)

 オリヴィアが自身の身体の価値をどのように考えていても、弱ればシャーロットは泣くし、聖女と慕う人々は不安に顔を青褪めさせる。
 オリヴィアとて何より、帰還まで持たせなければならない。

「自分のしたいように生きられないのは、難儀ね……。」
 その日は別荘の庭で、ほとんど差し込まない陽を浴びながら、素朴な綿の服でぼおーっとしていた。
 草の上で横になるのは何故だかとても心地が良い。

 するとトコトコと小さな足音がした。

 「聖女さま、これ……」
 小さな手の中には干しリンゴ。

 シャーロットが困った顔でライルを連れていた。
聞くと、聖女の体調不良を聞いて、泣きながら門の前に来ていたのだそうだ。

「オリヴィア様はきっと、お連れした方がお喜びになるかと…申し訳ありません、あの、お寛ぎのところに」
想像以上にオリヴィアが寛いでいてシャーロットは驚いたようだ。

 「ありがとう、ライル。」
「うん!」

 笑ってから、ゆっくりと息を吐く。肺が冷たい刃で撫でられたように痛む。
 (急がないと――門が開く前に、私が潰れる)

 フィンレイが言っていた「出来るなら」という言葉が気になってもいた。

 自身の身体が、無理をしているとは言え、魔界の学校で聞いていたよりずっと回復しないことと合わせて、不安は胸の中で燻っていく。

 自室へ戻ると、胸の圧が波状に襲う。指先から身体中の温度が抜け、頭が鐘になったように響く。
 シャーロットが慌ただしく駆け寄り、オリヴィアの額に触れた。
 「ああ熱い…。氷枕をお持ちします」
 「……熱なら、リンゴが良いのよね?」

聞くとシャーロットは泣き笑いのような顔をする。
「食べやすいようにしてもらいます」

 (ごめんなさい……)
 オリヴィアは頷くしかなかった。

きっとすぐ、オリヴィアはいなくなる。
その時に、シャーロットがあまり悲しまないでほしい。
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