敏腕パイロットは空の上のシェフを愛す~愛おしい双子を添えて~

ひどい仕打ちをされたとて、花梨は不思議と久登を恨む気にはならなかった・
彼のくれた言葉、眼差しがすべて嘘だとは、どうしても思えなかったからだ。
 
花梨がその後、久登から渡された電話番号に連絡することはなかった。
彼の存在から離れ、全く未知の職種で働き、全部生まれ変わる気でいた。
なのに――。
田舎に戻ってから、まだ一週間も経たないうちに、花梨の父の容体は急変した。
そして呆気なく、数日のうちに帰らぬ人となったのだ。
さらに衰弱する花梨に追い打ちをかけるように、今度は祖母が、静かに息を引き取った。
まるで先に逝った息子を追いかけるように……。

(どうして。生きててくれさえいたら、私、頑張れたのに……)

続く別れに、涙すら出なかった。悲しむ余裕も、嘆く気力も、もう残っていなかった。
後日、ふたり分の莫大な保険金が下り、父が生前に抱えていた借金は、すべて清算された。
帳簿の数字がきれいに整うほど、花梨の世界から、人の気配だけが消えていく。
気づけば、家には誰もいない。呼びかけても、返事は返らない。
愛する人が、誰もそばにいない現実。
ただ、彼らとの美しい思い出が花梨の心に留まり続けた。

『久登さん、元気なのかな』

寂しくなると、無意識に彼がくれた言葉を繰り返し思い出した。その都度、彼が恋しくなって、広い空を見上げる。

(全部捨てて家族のために生きるつもりだったのに、みんないなくなっちゃった)

天涯孤独になった彼女は、生きる希望を失い、漠然と死を想像するようになっていた。
だがそんなある日――。
身体の異変に気づき、訪れた病院で、妊娠していることを知った。

『双子ですね。もう十週に入ります。心拍も確認できていますよ』
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