君の言葉で夢を見たい
エレベーターの中で一人になった時、小さく息が漏れた。
この瞬間を半年間待ちわびていたはずなのに、ふと不安がよぎった。
「ロビーに寄りたい」なんて、言わなければよかった――。
半年ぶりに彼女と再会できたとして。
ここで働く彼女からしたら毎日ホテルを訪れるゲストのうちの一人にすぎない。
半年前に少し言葉を交わしただけの僕のことを、覚えているはずもない。
そんなことは職業柄、自分が一番わかっているはずなのに。
今更こんな当たり前のことに気づくなんて、舞い上がりすぎていた――。
そんな僕の後悔など知る由もないエレベーターは、目的地の「ロビーフロア」に向かって昇っていく。
体に少し重力がかかってエレベーターが停まると、再びスーツケースを握り直した。
ゆっくりと開いた扉の隙間から、あの日以来、何度も頭の中で思い出したロビーが姿を現した。
さっき地下で男性スタッフが言っていた通り、人影は少なかった。
大きな音を立てないように気を遣いながらスーツケースを転がし、ロビーを見渡した。
ゆったりと流れているクラシック。
カタカタとパソコンのキーボードを弾く音。
ラウンジの方からわずかに聞こえる女性たちの喋り声。
そして、コツコツと控えめに大理石を踏む足音――。
「いらっしゃいませ」
不意に背後から聞こえたその柔らかい声に、息を飲んだ。
同時にスーツケースの持ち手を握る指先にも力が入る。
密かに息を整えて、ゆっくりと声の方を振り返った。
「お荷物、お部屋までお運びいたしましょうか?」
半年前と同じあの声でそう言った彼女と、目が合った。