君の言葉で夢を見たい
「短い期間ですごいですね」
期待と打ち消しが高速で入れ替わって頭がパンクしそうになっていると、彼女がそう言った。
『短い期間』
その言葉にまた、僕の混乱が加速する。
まるで僕のこの半年間を知っているみたいに聞こえて、僕の勘違いだと押し込めた期待がまた顔を出した。
「なにかきっかけがおありだったんですか?」
その“きっかけ”が自分だなんて思ってもいなさそうな彼女が微笑んだ。
お腹の前で礼儀正しく手を重ねた彼女が、僕の答えを待つみたいに小さく首をかしげて見上げる。
その視線に、また、日本語が咄嗟には出てこなくなってしまう。
それに、本当のきっかけなんて言えるわけがない。
それを言ってしまったら、今こうして優しく笑ってくれている彼女でもさすがにドン引きするに決まっている。
それに、今までは「日本のファンのため」とメンバーやスタッフに誤魔化してきたけれど、その切り札は今は使えない。
……そもそも彼女は僕のことを知っているのか?
さっき地下のロータリーで、男性スタッフが無線で何かを確認していた光景が頭に浮かんだ。
団体でフロアを貸切にしてもらって、一般ゲストとバッティングしないように気を遣ってもらっている。
今日ここに僕たちの団体が泊まることくらいは、ホテルのスタッフである彼女も当然、把握しているはずだ。
でも、それと、僕個人のことを知っているかは別の話で――。
だけど目の前で微笑んでいる彼女からは、僕をどう認識しているのかを読み取ることができない。
半年ぶりに彼女を目の前にしてようやく思い知る。
僕がどれだけ彼女のことだけを考えていたのかを。
それなのに彼女が僕のことを覚えているかとか、僕が何をしている人間なのかとか――
彼女側から僕がどう見えていたかなんて、考えたこともなかった。
彼女の前に立つと、自分でも気づいていなかった足りない部分があちこちから顔を出す。
それは当然、恥ずかしくて他人に見せたくない部分。
だけど彼女は僕にそれを感じさせない。
いつもふわりと微笑んで、僕の失敗もまるごと包み込んでくれる。
まるで、彼女の声に似たふわふわの羽毛布団に包まれているような心地よさだった。