君の言葉で夢を見たい
「日本語で気持ちを伝えたい人ができたんです」
口からこぼれた自分の声は、自分でも驚くほど柔らかい響きだった。
え……っ?
それは用意していた日本語とも、頭の中で探していた日本語とも違った。
頭で選ぶ前にそのまま心からこぼれてしまった、まだいうつもりのなかった僕の本音――。
「わぁ……!」
僕を見上げていた彼女が目をまんまるにして、両手で口元を抑えた。
「すごく素敵ですね……!」
これまで聞いていた柔らかい声とも、英語を話す時の落ち着いた声とも違う初めて聞く声だった。
まんまるに開かれた瞳が何度かパチパチと瞬きをする。
いつも落ち着いていて隙のない彼女からこぼれた無邪気な声と表情に、僕の目も、耳も、釘付けになってしまった。
そんな僕に気がついたのか、彼女は「あっ」と小さく呟いて口元の手を下ろして元の位置に戻した。
だけどその表情はさっきよりも親しげに見えた。
だから言いたくなってしまった。
伝えたい人が誰なのか、何を伝えたいと思っているのか。
でもそれは、それだけは言わない。
今はまだ。
頭の中で完璧な文法で浮かんでしまった日本語を、一文字ずつ解体する。
「伝えられるといいですね」
そう言って、ふふと笑った彼女に、同じように微笑み返した。
「……いつかきっと、伝えます」
僕がそう言うと、彼女はまんまるになっていた瞳をふにゃりと細めた。
半年前、僕ではないゲストに向けられていたあの親しげな声と笑顔が、今は僕に向いている。
それだけで、今はまだ十分だ。
これ以上、彼女と言葉を交わしたらもっと欲が出る。
彼女と向き合っていると、また支離滅裂な日本語が飛び出しそうな予感がして慌ててスーツケースを握り直した。
「それじゃあ……」と会話を切り上げようとした時――
「사실은 저도 한국어를 공부했습니다.」
控えめに発されたその声に、思わず彼女へ視線を戻す。
心臓が、バカみたいに暴れている。
少し舌足らずな発音のその声は、ベッドの上をころんと転がる枕みたいだった。