クールな年上彼女は焼酎がお好き




 とはいえ頼子さんは、なんでもできるうえに綺麗で穏やかでと非の打ちどころのないお人。好意を抱いている男は他にもたくさんいた。しかし、よほど親しい友人でもない限り誰にでも分け隔てない態度はかえって踏み込みにくく、想いを寄せる男性陣はそろいもそろって攻めあぐねている状況だった。
 そんな中、女神は僕に微笑んだ。転換点は、入社以来の大失敗で一人落ち込んでいる現場を彼女に目撃されたこと。
 恋に落ちたときもこのときも、そして今でも、頼子さんにはダメなところばかり見られてしまう。でも、このときはまだ男としての見栄がかなり残っていたので、とても恥ずかしかった。
 そういう心情を頼子さんも察していたのだろう。初めは気づかない素振りで立ち去ろうとしてくれたみたいだ。けれど、その前に僕と目が合ってしまったのがまた間が悪かった。
 彼女は瞬時に方針を切り替えて「大丈夫?」と優しく労わってくれた。僕は「あ、はい」とつい返事をしたけれど、実際のところ全く大丈夫ではなかった。
 頼子さんは少し困った顔で「本当に?」と首を傾げた。

「なにか吐き出したいことがあったら聞こうか?」

 男としてカッコつけたいなら、「大丈夫です」と断るのが正解だろう。きっと、彼女に懸想する男たちも、ここで強がるから距離を詰めるタイミングを見失うのだ。
 だけどこのときの僕は、厳しい上司にこっぴどく叱られたあとでとても弱っていた。だから、つい「本当ですか……?」なんて寄りかかってしまって、ここまで来たら、この機会を最大限に利用するしかなかった。
 愚痴を聞いてもらうという名目で少々わがままを言い、飲みに連れて行ってもらった先で告白したのが一回目。たまたま退勤時間が重なり、二人で駅まで歩く最中にさらりと告げたのが二回目。
 そこからはなりふりかまわず機会を捉えては何度も何度も好きだと伝えた。煩わしく思われないように時に何気なく。冗談だと流されないように時に真剣に。
 好きです。付き合ってください。お試しでもいいんです。
 攻めに攻めた末、頼子さんは折れた。

「そこまで言うなら……分かった、付き合おうか」

 台詞からはしぶしぶという様子が伝わってきたけれど、かまいはしなかった。彼女の隣にいる権利を得られただけで有頂天になっていた。
 そのツケが今、不安という形で僕の心に暗い影を落としている。頼子さんは僕のことを、少しくらい好きになってくれたのだろうか――。
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