クールな年上彼女は焼酎がお好き

「長谷部くんはあんまりお酒飲まないの? まだ一杯目みたいだけど」
「あ、はい。飲むのは嫌いじゃないんですが、あんまり強くないらしくて」
「そうなんだ。じゃあ頼子に付き合うの大変じゃない? 酒豪だから」
「え? いや、えっと……」

 困惑する僕の様子に先輩がにやりといたずらっぽい笑みを浮かべる。

「大丈夫? 無理やり付き合わされてない?」

 軽い口調の心配は半分冗談だ。分かっているけれど、僕はぎこちない笑顔で「だ、大丈夫です」と答えることしかできなかった。
 頼子さんが酒豪だなんて、初耳だ。
 一緒にいるとき、彼女はいつも僕と同じくらいしか飲まない。初めて飲みにいった際に「お酒はあんまり飲まないんですか?」と訊ねたら、「うん、まあ。付き合いで飲む程度かな」と言っていた。そのあと交際をはじめてからも、僕との食事で飲むアルコールはごく少量だった。

 嘘をつかれていた?
 それってどうして?

 理由は簡単に予想がついた。
 僕が頼りないからか、信頼できないからか。
 どちらにしろ気を許してもらえていないのは薄々感じていた。
 二人で会ってはくれても、態度はいつまでも恋人以前のままだった。常にクールで大人でブレなくて、顔を合わせても甘い空気にはならない。
 お酒は人を無防備にする。何事にも抜かりのない頼子さんのことだ、本当に心を許せる相手の前以外では警戒するようにしているのだろう。
 その考えは理解できる。理解できるけれど――彼女の安心できる人間の中に自分が含まれていないことがはっきりして、僕はとても悲しくなった。自分は彼氏という名前がついただけの、その他大勢のうちの一人なのだ。

「長谷部くん? おーい、気持ち悪くなったー?」
「……いえ、平気です」
「そ? 気分が悪くなったらすぐ言ってね?」
「はい。……ちなみに、頼子さんが好きなお酒の銘柄とか、ご存知じゃないですか?」
「ん?」

 急な質問に先輩は瞳を瞬かせた。その目をじっと見つめ返す。
 多分、僕は知りたかったのだ。僕の知らない頼子さんのことを、なにか一つでも。

「えーと、たしか……」

 記憶を探って先輩の視線が宙空をさまよう。そうして少しの間のあと告げられた名前に、僕は……頬をひきつらせた。
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