ひとりが嫌で、今日も笑う。

フェンスにもたれかかって、空を見ている男の子。

制服は乱れていて、姿勢はだるそうなのに、存在感だけが鋭い。


……真城航斗。

その名前が頭に浮かんだだけで、心臓が跳ねた。


有名な暴走族“黒月”の総長、真城航斗。

学校中が恐れている相手。


私は反射で笑ってしまう。

「……あ、ごめんね〜?誰かいると思わなくて〜」


自分でもわかる。

今の声は、必要以上に明るい。


航斗は振り向かず、短く言った。

航「帰れ」


冷たい。

命令みたいで、背筋が凍る。


普通なら逃げる。

でも私は逃げられなかった。


逃げたら、また戻る。

あの教室の、作り笑いの世界に。

それも嫌だった。


私は笑顔を崩さないまま、屋上の扉をそっと閉めた。
< 3 / 126 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop