転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 それに同じ秘密を抱える同士ではあるけれど、アシュリーとしても上司と結婚は絶対に嫌だ。仕事の関係もあるが、何より常に検体にされるかもしれないという不安を抱えながらの結婚生活は勘弁してもらいたい。

「とりあえず今は何も考えないで、美味しいもの食べて飲んで遊んで、そのあとで考えたらいいんじゃないかなあ。ほら、ちょうどここに三日後の舞踏会の招待状がある」
「おかしくないですか? 明らかに用意してましたよね、それ」
「細かいことは気にしない気にしない。絶対に参加するようにって言われてたんだけど、パートナー必須で困ってたんだよね。ちょうど良かった」

 白衣のポケットから取り出された招待状を半ば押し付けるように渡されて、アシュリーは思わず突っ込みを入れてしまう。
 見慣れない印で封をされたその封筒は、すでに一度開封されているようだった。封筒に使われている紙もまた、この世界でアシュリーが使うものよりも遙かに良いものだ。

「ね? ボクにエスコートされて美味しいもの食べるだけの簡単なお仕事だよ? しかも特別給金付き」
「食事とお金で釣るのは卑怯では……」
「やだなあ。使えるものなら何でも使うのがボクの信条だからね」
「……何か良からぬことを考えてません? やっぱりわたしは遠慮させてもらいたいんですが」
「だーめ。どうしてもって言うなら上司命令にしちゃおうかな」
「そのときはパワハラで訴えます」
「じゃあ」

 そう言って、彼は身を乗り出してアシュリーの方へ手を伸ばしてきた。そして彼女の頤に指を掛けると、口角を持ち上げて面白そうに笑う。

「──訴えられたくないから、お願いしてる時点でいいよって言って?」
「かん、ちょう……?」

 前髪の隙間から琥珀色の瞳が覗く。このような状況に慣れていないアシュリーの胸は思いがけず高鳴ったけれど、ローウェルの瞳の中に浮かんだからかいの色を見て、すぐにその気持ちを引っ込めた。

「館長、人で遊ばな──」

 いでください、とアシュリーは苦言を続けようとした。だが、何やら騒がしい部屋の外からの声に言葉が途切れてしまう。
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