転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
くちびるをそっと噛む。アシュリーはなるべく明るい声を装って、口を開いた。
「……ごめんなさい、ヴィルヘルム様。わたくしの言葉はすべて、今だけの言葉だと流してください。明日にはもう、あなたの前には現れませ──っ」
言葉を遮るように口付けられ、アシュリーは目を見開いた。
一瞬触れたあと深い紫色の瞳と目が合う。悲しそうに歪んだその目にアシュリーの胸がちくりと痛んだ。
「あなたに、そんな悲しい顔をさせたかったわけじゃない。──俺は、自分らしくないことをするぐらいには、あなたのことを……想っている」
ヴィルヘルムは上半身を起こし、アシュリーを熱い視線で見つめる。向けられた瞳の中には欲が宿っていた。
「だが……すまない。あなたが望んでも、俺はあなたを離すつもりはない。今夜だけになど、させない」
──この人が愛おしいと、ただそう思った。
「あなたが欲しい」
真っ直ぐに告げられた言葉にアシュリーは迷うことなく頷いた。
――こんなふうに、好きなひとに触れてもらえる未来があるなんて考えたことはなかった。だからアシュリーにとってこの夜の出来事は、最初で最後の大切な思い出だった。
抱き締めてくれた腕の逞しさとか、触れられたときに伝わる熱だとか。けして被虐趣味ではないが、痛みすら幸せだったと思えた。
熱を分かち合い、疲れでうとうとしていたらまるで愛を伝えるかのような優しいキスが落ちてくる。
抱き締めてくれるヴィルヘルムの腕がとても温かくて、幸せで。
この温かさは忘れないでいたいとアシュリーは思った。
「少し……いや、だいぶ無理をさせた。時間になったら起こすから、それまでゆっくり眠るといい」
ヴィルヘルムがアシュリーを気遣って優しい言葉をかけてくれる。
慣れない環境で、慣れない振る舞いをしたアシュリーの体は限界だった。
──だめ……寝たら……帰れなく、なる……
頭では起き上がらなければとわかっているのに体は思うように動かない。
「目が覚めたら、俺にあなたの名前を呼ばせてくれ」
そう言えば、最初は《シェリー嬢》と呼んでくれていたけれど、《シェリー》とは呼んではくれなかった。
曖昧な意識の中でそんなことを思う。
偽りの名前でもせめて名前くらいは呼んで欲しかったと思わずアシュリーは自嘲した。
目が覚めたら、だなんて、悲しい約束にも程がある。
「あい──てい──」
ヴィルヘルムが何かを囁いた。次いで頬に柔らかなものが触れる。
けれど我慢できず意識を手放したアシュリーにはヴィルヘルムが何を言ったのかも触れた温もりの正体にも気付くことはなかった。
「……ごめんなさい、ヴィルヘルム様。わたくしの言葉はすべて、今だけの言葉だと流してください。明日にはもう、あなたの前には現れませ──っ」
言葉を遮るように口付けられ、アシュリーは目を見開いた。
一瞬触れたあと深い紫色の瞳と目が合う。悲しそうに歪んだその目にアシュリーの胸がちくりと痛んだ。
「あなたに、そんな悲しい顔をさせたかったわけじゃない。──俺は、自分らしくないことをするぐらいには、あなたのことを……想っている」
ヴィルヘルムは上半身を起こし、アシュリーを熱い視線で見つめる。向けられた瞳の中には欲が宿っていた。
「だが……すまない。あなたが望んでも、俺はあなたを離すつもりはない。今夜だけになど、させない」
──この人が愛おしいと、ただそう思った。
「あなたが欲しい」
真っ直ぐに告げられた言葉にアシュリーは迷うことなく頷いた。
――こんなふうに、好きなひとに触れてもらえる未来があるなんて考えたことはなかった。だからアシュリーにとってこの夜の出来事は、最初で最後の大切な思い出だった。
抱き締めてくれた腕の逞しさとか、触れられたときに伝わる熱だとか。けして被虐趣味ではないが、痛みすら幸せだったと思えた。
熱を分かち合い、疲れでうとうとしていたらまるで愛を伝えるかのような優しいキスが落ちてくる。
抱き締めてくれるヴィルヘルムの腕がとても温かくて、幸せで。
この温かさは忘れないでいたいとアシュリーは思った。
「少し……いや、だいぶ無理をさせた。時間になったら起こすから、それまでゆっくり眠るといい」
ヴィルヘルムがアシュリーを気遣って優しい言葉をかけてくれる。
慣れない環境で、慣れない振る舞いをしたアシュリーの体は限界だった。
──だめ……寝たら……帰れなく、なる……
頭では起き上がらなければとわかっているのに体は思うように動かない。
「目が覚めたら、俺にあなたの名前を呼ばせてくれ」
そう言えば、最初は《シェリー嬢》と呼んでくれていたけれど、《シェリー》とは呼んではくれなかった。
曖昧な意識の中でそんなことを思う。
偽りの名前でもせめて名前くらいは呼んで欲しかったと思わずアシュリーは自嘲した。
目が覚めたら、だなんて、悲しい約束にも程がある。
「あい──てい──」
ヴィルヘルムが何かを囁いた。次いで頬に柔らかなものが触れる。
けれど我慢できず意識を手放したアシュリーにはヴィルヘルムが何を言ったのかも触れた温もりの正体にも気付くことはなかった。