転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
閑話
 密着させていた体を離し、起き上がったヴィルヘルムは、そっとシェリー……否、アシュリーの顔を覗き込む。
 寝息こそ穏やかだが、誰かに見られたならば一瞬で何があったのかを悟られるだろう格好だろう。
 やり過ぎだと非難されても否定できなかった。
 けれどそれでも。
 想いを寄せている人をこの腕に抱くことができて、喜ばない男がいようか。

 起こさないように、ヴィルヘルムは普段とは真逆の色をしたアシュリーの髪に口付ける。
 ローウェルが作った染料で染められているのだろう、彼女の髪は地毛にしか見えないくらいに綺麗に染まっている。
 今は閉じられているお揃いだった紫の瞳の色も、彼女をより艶やかに見せていた。
 どこか落ち着かなかったのは、やはりヴィルヘルムが普段の落ち着いた色合いのアシュリーの姿を好ましく思っていたからだろう。
 さらに普段は首元までをしっかりと隠すワンピースしか着ない彼女が、首元が晒され、肌を晒した露出の高いドレスを着ている……目のやり場に困って、思わず視線を逸らしてしまった。
 別人を装おうとも彼女は彼女でしかない。ゆえに隣を歩くローウェルに醜い嫉妬をしたのは大人気なかったけれど、当然のことだった。

『やだなあ。そんな怖い顔しなくたって──』

 そしてこの男にはそんなふうにヴィルヘルムが思ったことも、お見通しだったのだ。

『アシュリーちゃんは、ボクの恋愛対象にはならない。妹分でしかないから安心してよ』

 昔からおかしなことを言うような男だったが、観察眼は鋭かった。
 まるで人の心を見抜いて的確な言葉を寄越すあたりは本当に敵に回したくない相手だ。

 ──だからと言って、俺の目の前でアシュリー嬢に迫ったり、舞踏会に誘ったことは許さないが。

 研究室でアシュリーがローウェルに迫られているのを見たとき、頭に血が上った。彼女に婚約を申し込むという話をしたあとのことだったから、どう言うことなのだと詰め寄りたくもなった。
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