転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 実際にアシュリーが部屋から出たあとに詰め寄りはしたが、その場だけでも冷静さを取り戻せたのはそこにアシュリーがいたからと、ローウェルの目に戯れの色が浮かんでいたからだ。
 だが仮にローウェルが誘わなくても、ヴィルヘルムではアシュリーを誘うことすらできなかっただろう。
 そもそもヴィルヘルムの誘いにアシュリーが頷いてくれるかもわからないし、頷いてくれたとしても王太子の護衛で側に居られる時間は限られる。
 しかしローウェルがアシュリーを舞踏会に参加させたことは、視点を変えて考え直すと別の見方もできる。
 ローウェルが彼女を選んだのは性格を知っているアシュリーがサポートに回るのが最適だったからだ。
 そして同時にヴィルヘルムとアシュリーがふたりで話す機会を与えようとしてくれたのではないか。
 でなければ、ローウェルだけでなく、王太子までアシュリーが姿を騙っていたことを知っていたわけがない。ジェラルドは知らなかっただろうが、王太子とローウェル、ヴィルヘルムの会話に何かを感じ取りはしたはずだ。
 ……だがさすがにお膳立てしてくれた彼らも、ふたりがこんな状況になってしまったことは予想外だっただろうが。
 ヴィルヘルムも、いつもならいくら誘われてもその誘いに乗ることはなかった。下手を打って結婚でも迫られたら堪ったものではないからだ。
 だが、彼女にだけは我慢ができなかった。
 寧ろこれで結婚を迫られたら悩む間もなく婚約の話をして、外堀だけではなく彼女自身を囲い込むことができる。

 ──そのぐらい単純で簡単であれば、俺はもっと早くにあなたを妻にできただろうな。

 思わずヴィルヘルムの顔に自嘲の笑みが浮かぶ。
 しかしアシュリーはまだ知らない。一夜だけの恋人を強請った相手が、彼女があれほどまでに避けたがっていた求婚の相手だと言うことを。
 何せ、アシュリーは相手の写真も見ていなければ、名前も知らない。
 ローウェルから聞いたときはまさかと思ったが、今日の振る舞いを見ていたらわかる。
 ヴィルヘルムが婚約相手だと知っていたら、彼女にあんな演技はできない。

「どうしたらあなたは、俺を受け入れてくれる……?」

 妻となるべき人以外を、この腕に抱くつもりはない。
 生涯、彼女以外の女性は、いらない。
 隣に立ってくれるのも、子を産んでくれるのも、最期まで一緒にいたいと思うのも、アシュリーだけだ。
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