転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 アシュリーが今暮らしている部屋だって少し離れている位置にあるから、そこまで行くとしてもその間に誰かに会わないとも限らないし、この格好で《アシュリー・マクブライド》の部屋に入るところを見られでもしたら、ローウェルが同伴させ、ヴィルヘルムに連れられた女がアシュリーだと知られる可能性が高くなる。
 職場でもある図書館に身を隠すにしても、この時間は閉館していて中に入ることはできないから、そもそも論外だ。
 今更、行き当たりばったりで部屋を出てきたことを後悔するが、戻れない以上どうにかするしかない、とアシュリーがドレスの裾を持ち上げたときだった。

「……っ」

 暗闇の中に光が浮かび、それは彼女の姿を照らす。拙い、と思ったのも束の間、ランプから顔を覗かせたのは馬車に一緒に乗っていたカルヴァート公爵家の侍女だった。
 彼女はアシュリーの格好を驚いたように見つめ、すぐに我に返ると周囲を警戒するように近付いてくる。
 そしてランプを持つ方とは逆の手に持っていた荷物をアシュリーに渡すと、声を潜めて言った。

「その姿では目立つので、ひとまずこれを。……裏に馬車を回しています。歩けますか?」

 渡されたのは、アシュリーの作った張りぼてのカーテンのショールとは比べものにならない、きちんとしたショールだった。薄手ではあるが透けないタイプのもので、尚且つ大きめに作られている。

「素肌をしっかりと覆うようにして、羽織ってください。今のお嬢様の格好は、飢えた狼からしたら絶好の餌ですから」

 彼女は胸元をとんとん、と指先で叩く。
 それだけで何が言いたいのかわかって、アシュリーは顔を赤くしながら張りぼてのショールを急いで取り、差し出されたものを羽織った。
 大きいお陰で首筋から胸元にかけての素肌はしっかり覆われる。

 そして彼女に道案内されながら、アシュリーは無事馬車に乗り込み、城を後にしたのだった。
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