転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 彼女曰く、ローウェルからアシュリーを探して欲しいと指示があったらしい。部屋に誰もいない、扉に鍵がかかっている──そんな状況なら、普通は考えない方法でそこから出るだろうから、悪い男に捕まる前に見つけてあげてと。
 そして案の定ローウェルの読みは当たり、窓から出たとしたらどの道を使うかを考えて辿っていたら、彼女はアシュリーを見つけたのだと言う。
 ローウェルの読みはアシュリーの思考パターンを考えてのことだろうが、窓から逃げ出したあとの道筋はローウェルから状況を聞いて、彼女自身が考えたのだという。
 何か言いたげなアシュリーに気付いたのだろう。彼女はそれはもう綺麗な笑みを浮かべた。

「一時期スパイの真似事のようなこともしておりましたが、それ以上にローウェル様にお仕えしていると、普通の方法ではあの方を出し抜けなくて……心理術などを少々」

 何でもないことのようにさらっと言われてしまい、アシュリーは言葉を失う。
 色々と聞きたいことは頭に浮かんだが、尋ねていいか迷っているうちにカルヴァート公爵家に到着してしまった。
 どこでなくしてしまったのか、目に付けていた色硝子は取れてしまっている。
 髪の染料を落として、元着ていた服に着替えれば──体は多少ベタついているが、これ以上迷惑を掛けるわけにはいかないので──帰れるとアシュリーは言ったのだが、その申し出は却下され、有無を言わさず連れて行かれたのは浴室だった。
 ぴかぴかに磨かれた浴槽には湯が張ってあり、いい匂いもする。

「今晩はお疲れでしょう。一泊していくようにと、ローウェル様からの《ご命令》です」

 ひくり、と頬が引き攣った。
 そんな命令なんて知らないと突っ撥ねて飛び出すことができれば良かったのだが、悲しい哉、それをできる度胸はアシュリーにはない。
 精々が理由を並べ立てて、何とか穏便に帰らせてもらえるように努力することだけだ。
 例えば、上司と部下であろうと男と女、変な噂が立つかもしれないので、とか、ローウェルの屋敷から出てきたところを見られたら、もしかしたらシェリー=アシュリーと結び付ける人がいるかもしれないから、とか色々と理由を言って断ろうとしたのだが、彼女に笑顔で論破されてしまい、アシュリーは二の句が継げぬまま、入浴道具と一緒に浴室に押し込められた。
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