転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 ローウェルは知っている。もしかしたら断片的にかもしれないが、それでもアシュリーの身に何があったのかを。
 考えれば当たり前だ。だって昨夜、アシュリーを迎えに来てくれた侍女はローウェルの屋敷で働いている人で、彼女はローウェルの指示で動いたと言っていたではないか。
 そこからローウェルに伝わるのは当たり前のことだ。
 羞恥心で顔が熱くなっていった。膝の上で握った手のひらが震える。

 ──何か、言わないと。

 そう思って頭に浮かんだのは、目が覚めたときに部屋にいなかったヴィルヘルムのことだった。
 アシュリーが昨夜一緒にいたのはヴィルヘルムだけだ。ならば、こうなった理由が彼にあるのではと考え、彼にとばっちりが行くだろうことは簡単に考えられた。

「館長、申し訳ありません! ですがあの方は悪くなくて、わたしが誘って、それで……っ」

 言葉が上手く吐き出せない。溢れた声は震えてしまった。
 視線を向けたその先には、ローウェルが座っている。普段は飄々とした表情で、どんなことを考えているのかわからない。けれど、今の彼の顔からは考えどころか感情すら窺えなかった。

 ──怖い。

 アシュリーの心の中に恐怖心が浮かぶ。呼吸するのが苦しくなってきて、思わず胸元を握り締めた。

「アシュリーちゃん、さあ」

 静かな部屋にローウェルの声が響く。気付くと、広間にはローウェルとアシュリーだけになっていた。
 びくりと彼女が肩を揺らすと、ローウェルは深くため息を吐く。

「ボクは君に忠告したよ。《間違っても婚約の話を白紙にしようとして他に婚約者を作ろうとしたり、貴族籍を抜けるために不祥事起こしたりしないようにね》って」
「は、い」
「その上で、はっきりしておきたいから聞くけど、君は婚約者が誰か知らない。けど結婚するのは嫌だから、婚約の話を白紙にしようとしてヴィルヘルムを誘ったの? もしあのとき、ヴィルヘルム以外を相手に付けたとしても、君は同じことをした?」

 真っ直ぐ視線を向けられて問われた言葉に、アシュリーはすぐに答えられなかった。
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