転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 何も言葉を返せないまま、アシュリーが必死にそのときの打開策を考えていると、正面から深いため息が零された。そこにいるのは、ローウェルしかいない。

「……まあ、そんなことだろうとは思ってたけど。アシュリーちゃんが自分に自信がないことなんて今更だし、前は《ヴィルヘルムの幸せを遠くから見守る名無しのモブB》になりたいって言ってたもんね」
「す、みません……」
「そもそも今回のことだって、ちゃんと話をしてもらうために作ってあげた機会なのに、どうしてすれ違いが加速して拗れてるの。まあ、側から見てると楽しいからいいけど」
「え?」

 言葉の真意を知りたくて問い掛けようとしたけれど、その前に笑顔でそれ以上の問い掛けを拒絶される。

「んーん、何でもない。にしても、アシュリーちゃんは自分が誘ったって言うし、ヴィルヘルムは強引に事を進めたって言うし、お互いに相手を庇ってて君たち本当にお似合いだよね」

 唐突に落とされた爆弾に、アシュリーは目を瞬かせた。
 言葉の意味を理解してもアシュリーの頭から疑問符は消えてはくれない。
 困惑と喜びと申し訳なさが混じったような、何とも言えない表情でローウェルを見るけれど、彼は先ほどまでの無表情を感じさせない楽しげな笑みをその顔に浮かべていた。
 色んな気持ちでぐるぐる回っているアシュリーの思考を断ち切るように、

「まあ、でも」

 と、ローウェルは仕切り直すように言葉を続けた。

「今回のことはこうなるところまで予測できなかったボクにも落ち度がある。“別に悪いことしたわけでもない”し、アシュリーちゃんにもヴィルヘルムにも、罰を与えようってことは考えてないから安心して。さっきの質問も、アシュリーちゃんの気持ちをちゃんと確認したかっただけだから」

 言われた言葉に、アシュリーはローウェルを凝視する。掴みどころがないのは確かだが、どうしてかその言葉は嘘ではないと思えた。
 緊張で強張っていた体の力が抜けていく。
 けれど、アシュリーの気持ちを確認したとして、その気持ちが実ることはない。わかっているからこそ、叶わない片想いに胸が苦しかった。
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