転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 ここは図書館で、話をすることはあまり好意的に思われない。それ故の配慮だろう。
 名前を呼ばれて、アシュリーの肩が動揺で揺れる。
 それに気付いたのだろう。ヴィルヘルムは困ったような顔をした。

「その……いきなり、すまない。ローウェルは、こちらにいるだろうか」
「あ、……はい、おります。ごめんなさい、ご案内しますね……っ」

 もしかしたら、先日話せなかったという話をしに来たのかと思ったのだが、ヴィルヘルムが用があったのはローウェルだったようだ。

 ──は、恥ずかし、い……!

 自意識過剰が過ぎて、アシュリーは羞恥で頬を赤くした。

「こちらになります」

 ローウェルのいる館長室へ行くには、受付カウンターを通らなければならない。そのため司書に声を掛けなければならないが、今受付を担当している司書は貸し出しの対応中で、そのため彼はアシュリーに声を掛けたのだろう。

 受付カウンターから入り、バックルームを通る。そして表には並ぶことのない貴重な古書の保管庫を進むと、その先に館長室はある。
 珍しく研究室ではなく図書館にいる上司は保管庫から貴重な資料を引っ張り出してきて、館長室で研究書と睨めっこの最中だ。
 まだ外に持ち出さないだけマシなのだろうが、出張で留守にしている古書をこよなく愛する副館長の耳に入らないことだけをアシュリーは祈っている。

「あれから、残業にはなってないか」

 無心を保つために必死に違うことを考えていたのだが、隣から掛けられた声が彼女を現実へと戻した。
 いつもならば後ろにいるはずのヴィルヘルムはどうしてか今日は隣を歩いていて、距離感の近さに、どうしても緊張してしまう。

「だっ大丈夫です! 館長が色々と気を回してくれて、今はもう定時で帰ることができています」

 噛まないだけまだ良かったのだろうが、声が上ずってしまった。
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