転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 そわそわとしながらアシュリーは頬にかかった髪を耳にかけた。

「気持ちの伝え方の好みは人それぞれなので、あくまで一例だと思って……いただけたら、なんですが」

 結婚はしないと決めているけれど、アシュリーはけして、恋愛に興味がないわけではない。
 勧められた恋愛小説にも、ヒロインに告白をするヒーローの姿があって、憧れたものもあった。
 けれどその中で、もし好きな人に──ヴィルヘルムに言われて嬉しい言葉は何かと考えたとき、答えはひとつしかなかった。

「わたしだったら、何も飾らない、ストレートな言葉で言われるのが一番嬉しいです」

 言いながら恥ずかしくなって、アシュリーは照れ笑いを浮かべる。
 ヴィルヘルムはその答えに驚いたような顔をしたけれど、一瞬眩いものを見たように目を細めると、

「……そうか」

 と、頷いた。
 合わせて優しい眼差しでじっと見つめられて、アシュリーは羞恥心に負け、そっと視線を逸らしてしまう。

「で、でも多分わたしの好みは、あまり参考にはならないと思います。大多数の女の人は、詩的な……情熱的な言葉で告白されるのが好きみたいなので……」
「いや、十分参考になった。……俺でも叶えられそうで、安心している」

 恐らく安堵して、気が緩んだのだろう。
 その呟きを何でもないように聞き流すことはできなかった。
 ──俺でも、と、ヴィルヘルムは言った。
 聞き流すことができれば良かった。気付かなければ良かった。もしかしたら、と浮かんできた考えは、もう消えてはくれない。
 この話の流れで、文脈で、気付かないことは、できなかった。
 彼がアシュリーに尋ねてきた相談は、彼の友人ではなく、彼自身の話なのだと。

 考えてみれば、今までに話したことのない内容を振られた時点で、予想を立てることはできたはずだ。
 それに婚約者がいるのならばともかく、恋人もいないアシュリーに振る話題ではない。それが知り合いの話だと言うのならば尚更だ。
 恐らく、想いを寄せている女性以外に身近にいた異性が、アシュリーだけだったのだろう。だから彼は、アシュリーに相談してきたのだ。
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