転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 ──もしかして、ローウェルが言っていたヴィルヘルムの話とは、このことなのだろうか。確かに気持ちを吹っ切ることができると考えれば悪い話ではないけれど、いい話でもない。
 突き付けられた事実に膝から崩れ落ちそうになる。
 同時に、そんな人がいたならどうして誘いに乗ったのかと疑問が浮かんだ。忘れようと努力して、忘れきれなかった先日の夜の記憶が蘇る。
 けれど、それをぶつけることはできない。
 あの夜ヴィルヘルムを誘って彼と過ごした女性は、《アシュリー》ではないのだ。

「お相手の方は、どう思われているんですか、ラインフェルト副団長……のお知り合いの方のこと」

 気付けば、アシュリーは問い掛けていた。
 話を広げて自分で自分の傷を抉るなんて馬鹿だと思う。そんな自分にアシュリーは自嘲した。

「恐らく、同じ気持ちだと思うのだが……最近、彼女に避けられている気がして……自信はない」

 自信なさげに落ちてきたヴィルヘルムの声に視線を上げると、彼は瞳を伏せたところだった。

 アシュリーがもし野心的で積極的に自分を売り込めるタイプの令嬢であったならば、ここで彼にとっては望まないだろう言葉を吐き出して、自分の方に目を向けさせようとしただろう。
 けれど、そんな勇気があったなら叶わないとわかっていても気持ちだけでも伝えていただろうし、こんな状況になることはなかった。
 失恋して、自らで自分の傷を抉って、その上好きな人の役に立とうとしている自虐的な自分に呆れながら、アシュリーは疑問を口にした。

「ちなみに、避けられてると言うのはどんな感じに、ですか?」
「彼女とすれ違うことの多かった廊下で、出会わなくなった。別の道で彼女の姿を見かけても、騎士団員がそこにいると気付くと、逃げてしまう。……久し振りに話せたと思ったら、どこかぎこちなくて、以前と同じようには笑ってくれなかった」
「あ……」
「アシュリー嬢?」

 ヴィルヘルムの状況にどこか既視感を感じる。けれどアシュリーは首を横に振って、何でもないと肩を竦めた。
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