転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 話を整理して考えると、どうやら彼の想い人は城にいる女性の誰からしい。
 隣に立つのに相応しい女性を記憶の中から探してみるけれど、感情が邪魔してうまく探せなかった。
 首を横に振ったとき、ヴィルヘルムが落胆したような表情をしたように見えたけれど、気の所為だろうか。

「ええと、避けられるようになった理由に心当たりは、ありますか?」

 少しの沈黙のあと、言い難そうにヴィルヘルムは口を開いた

「心当たりは、あると言えば、ある……のだが、相手も同じ気持ちだと知ったのは、そのときだった。だから少し、判断に迷っている」

 心当たりだというタイミングで同じ気持ちだとヴィルヘルムが知ったのなら、必ずしも避けられる理由がそこだとは限らない。
 ならば、彼女の口にした《好き》だという言葉が嘘だったら?
 顔を合わせるのが気まずくて避けている可能性が高い。その逆に、本当だったとしても恥ずかしくて避けてしまうだろう。
 アシュリーだったらきっと羞恥心が勝って、避けてしまう。
 こういうときに恋愛経験が豊富であればヴィルヘルムを鼓舞してアドバイスくらいはできたのだろう。
 だが、ほぼ恋愛初心者と言っていいアシュリーに気の利いた励ましができるはずもなく。

「やはり……嫌われて、しまったのだろうか」

 切なげな響きで、ヴィルヘルムが呟く。
 好きな人に避けられて嫌われてしまったかと不安になるヴィルヘルムの気持ちは痛いほどわかる。

「状況を聞いただけなので、嫌われてないとも嫌われているとも、わたしは言えません。だから……月並みのことしか言えなくて申し訳ないのですが、まずは一度、きちんと話をしてみたらどうかなと思います」

 言葉にしながらアシュリーは、どんな口がこんなことを言うのかと心の中で失笑した。
 こんな偉そうなことを言える立場に自分はいないのに。

「話をして、それで嫌われていなかったときは改めて気持ちを伝えてみたら、どうでしょうか……?」

 あまりにヴィルヘルムが真剣に見つめてくるものだから、緊張で語尾が怪しくなっていく。
 妙案は思い浮かばなかったけれど、ヴィルヘルムに幸せになって欲しいという気持ちは本物だ。
 アシュリーの恋は叶わなくなったけれど、せめて、彼の想いは叶って欲しかった。
 けれど、応援したい気持ちとは裏腹に失恋の悲しさや苦しみも一緒に襲ってきて、気持ちの整理が付かない。
 笑わなければいけないことはわかっているのに、表情は強張るばかりだ。
 どうして深く相手のことなど尋ねてしまったのだろうか。聞かなければ、まだ自然に笑えたかもしれないのに。
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