転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
「あの、ええと……」

 もしかしたらという希望を持ってしまい、アシュリーの頬が赤くなる。
 そんなことが、あるはずない。この、望みを持ってしまいそうな空気を誤魔化さなければ。そう思って慌てて言葉を絞り出す。

「な、なんか誤解してしまいそうですね。ラインフェルト副団長にそんな、誤解してしまいそうなことを言われてしまったら、ちょっとドキッとしてしまいます。自意識過剰だってわかるのに……変なこと言ってごめんな……え?」

 落ちてきてしまった後れ毛を耳に掛けながら作り笑い交じりにヴィルヘルムを見つめたら、彼の頬も僅かに紅潮していて、驚きから言葉が途切れる。
 目線を逸らし、口元と頬を隠すようにヴィルヘルムが手のひらで顔を覆う。
 それはまるで、アシュリーの言葉を肯定しているような反応だった。

「自意識過剰では、ない」

 口元を押さえたヴィルヘルムがしっかりとした声で言った。

「アシュリー嬢、俺が好きなのは、あなただ」

 逸らされていた目がアシュリーを迷いなく見つめる。飾った言葉は何もなく、真っ直ぐに想いを告げられて、驚きで何も考えられなくなった。

「……っ」

 やっとのことでヴィルヘルムの言葉を飲み込んだアシュリーは、我に返った自分の顔が再び熱くなっていくのを感じた。
 こんなことは、ありえないと思っていた。想いを寄せていた人から告白されたことは、願ってもない喜びだ。これ以上ない幸せだろう。
 けれど、自分はヴィルヘルムには相応しくないという思いが湧いてしまい、素直に頷けなかった。
 それに先日までならともかく、アシュリー自身は承知していないが、婚約者という存在ができてしまっている。どんな相手なのかは知らないけれど、それでも夫以外の相手を作って恋人……愛人関係を築くなんてことはしたくないし、ヴィルヘルムにも失礼だろう。

 彼を傷付けることになるのはわかっている。ヴィルヘルムの恋の成就を願いながらも、彼の手を取らず、振り払うことを選ぶのはアシュリーのエゴだ。
 それでも、婚約者ができてしまったアシュリーとでは、ヴィルヘルムに幸せは訪れない。
 そのことを考えたら、嫌われてでもここで突き放すのが最善に思えた。
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