転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
4-1
 最後の利用者が図書館から出て行くと、扉には《閉館》の札が掛けられる。
 そして館内の見回りをして異常がないかを確認すると、抱えている仕事がない職員は支度をして帰っていく。
 アシュリーもまた、いつもの倍の時間を掛けて支度をして帰ろうとしていたのだが、その心中では残業する口実がないかを必死に探していた。
 ヴィルヘルムから告白されて、約束を取り付けられたのは今日の日中のことだ。それから閉館の時間である今まで、時間の進みがいやに早く、あっという間に経ってしまっていた。
 いつもであれば忙しい日でない限りはこんなにも時間の進みが早いだなんて考えることはないのに。
 こういうときに限って残ってやる仕事も何もなく、このあと待ち受けていることを思うと、アシュリーの心がズンと重くなる。
 幸いにも今、ローウェルの目はない。逃げ出すことも考えたけれど、もしもヴィルヘルムがアシュリーが出てくるまで待っていたらと思うと、実行には移せなかった。
 女は度胸と気持ちを切り替えることもできず、ぐるぐると悩んでしまう。そうして、気付けば帰る支度を終わらせてしまっていた。
 さてどうしよう、とため息を吐いたとき、先ほど出て行ったはずの同僚が戻ってきた。そばかすの出来た頬を僅かに赤く染めて、彼女はアシュリーの方に近付いてくる。

「アシュリーさん、裏口のところでラインフェルト副団長が待ってるけど、何かあったの?」

 疑問符を浮かべて問い掛けられ、アシュリーは一瞬固まる。
 彼女の口から出た名前に、僅かに部屋がざわつく。

「えっ、と……そうそう、館長のことで、ちょっと話があるって言われてたの!」

 苦し紛れに出た理由だったが、どうやら納得してもらえたらしい。ざわついていた空気は、次第に大人しくなっていく。
 しかし、ここで時間が過ぎるのを待つという選択肢は取れなくなってしまい、アシュリーは逃げるようにお先失礼します、と言って部屋を出た。
 ヴィルヘルムから用があると言われてしまった手前、職員用出入り口へ向かわないわけにはいかない。
 いつもよりも遅い速度で廊下を進み、恐る恐る扉に手を掛けた。
 一気に開ける勇気は出なかったので、扉をなるべく静かに少しだけ開けて、その隙間から顔を覗かせる。
 ──ヴィルヘルムが待っていると伝えてくれた彼女の言葉が実は嘘でありますようにと願いながら。

「……っ」

 しかしヴィルヘルムの姿は、すぐに見つかった。
 少し離れた壁のところに背中を預け、腕を組んで地面に視線を落としている。
< 66 / 96 >

この作品をシェア

pagetop