転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
そのあとをアシュリーは少し遅れて追う。赤くなった頬を彼に見られないように隠しながら。
ヴィルヘルムの言葉通り今度は足が小走りになることもなく、適度な距離を保ったまま、ふたりは目的地へと到着した。
日中であればアシュリーの職場である図書館にも微かに鍛錬の声が聞こえてきているが、日が沈んだ今は団員の声は落ち着いていた。
しかしやはり騎士団に立ち入る女性というのは珍しいらしい。好奇の視線が突き刺さり、ひどく居た堪れない。
向けられる興味本位の視線に縮こまっていると、アシュリーの姿に気付いたヴィルヘルムが周囲を睨みつけて視線を散らしてくれた。
「すまない」
建物に入り、ヴィルヘルムの先導で進んだ先、副団長の執務室に足を踏み入れる。
そして一番にヴィルヘルムが口にしたのは謝罪の言葉だった。
「い、いえ」
「不躾に女性を見ないようにと、部下たちにはよく言い聞かせておく。……良ければ座ってくれ」
「……ありがとうございます」
ヴィルヘルムが座るように促したのは、廊下へ続く扉へ近い方のソファーだった。
恐らくこれは彼なりの誠意なのだろう。扉に近い方であれば廊下へ逃げやすい。
万が一の可能性なんて考えていなかったけれど、彼の誠意に甘えてソファーに腰を下ろすと、ヴィルヘルムもアシュリーの向かいのソファーに座る。
アシュリーが顔を上げるとたまたまヴィルヘルムも顔を上げたところだった。
深い、吸い込まれそうなほどに濃い紫色に魅入られて動けない。先ほどから緊張で動悸が止まらない。
「アシュリー嬢」
「は、い」
静かに名前を呼ばれて、アシュリーは膝の上に置いた手でぎゅうとスカートを握る。
何とか声を絞り出すけれど、返した言葉はどこか自信なさげで、きちんとした返事と言うにはひどく掠れてしまっていた。
「あなたの返事を保留にして、その上時間を欲しいとこんなところまで連れてきた。まずはそのことを謝りたい」
すまない、と言って、ヴィルヘルムは頭を下げる。
アシュリーはそのことに固まり、そして慌てた。
しかし、彼女が口を開く前にヴィルヘルムが畳み掛けるように言葉を続ける。
「きっとすべてを伝えたら、あなたに幻滅されるだろう。だが、このままあなたを諦めることになるのなら、格好悪くてもきちんと話して、俺の気持ちを知ってもらいたかった」
「ライ、ンフェルト副団長……?」
彼の言葉は真剣で、真っ直ぐで、アシュリーは目を逸らせない。心が揺れて、自身も好きだと言ってしまいそうになる。
けれどそれは、だめなのだ。
ヴィルヘルムの言葉通り今度は足が小走りになることもなく、適度な距離を保ったまま、ふたりは目的地へと到着した。
日中であればアシュリーの職場である図書館にも微かに鍛錬の声が聞こえてきているが、日が沈んだ今は団員の声は落ち着いていた。
しかしやはり騎士団に立ち入る女性というのは珍しいらしい。好奇の視線が突き刺さり、ひどく居た堪れない。
向けられる興味本位の視線に縮こまっていると、アシュリーの姿に気付いたヴィルヘルムが周囲を睨みつけて視線を散らしてくれた。
「すまない」
建物に入り、ヴィルヘルムの先導で進んだ先、副団長の執務室に足を踏み入れる。
そして一番にヴィルヘルムが口にしたのは謝罪の言葉だった。
「い、いえ」
「不躾に女性を見ないようにと、部下たちにはよく言い聞かせておく。……良ければ座ってくれ」
「……ありがとうございます」
ヴィルヘルムが座るように促したのは、廊下へ続く扉へ近い方のソファーだった。
恐らくこれは彼なりの誠意なのだろう。扉に近い方であれば廊下へ逃げやすい。
万が一の可能性なんて考えていなかったけれど、彼の誠意に甘えてソファーに腰を下ろすと、ヴィルヘルムもアシュリーの向かいのソファーに座る。
アシュリーが顔を上げるとたまたまヴィルヘルムも顔を上げたところだった。
深い、吸い込まれそうなほどに濃い紫色に魅入られて動けない。先ほどから緊張で動悸が止まらない。
「アシュリー嬢」
「は、い」
静かに名前を呼ばれて、アシュリーは膝の上に置いた手でぎゅうとスカートを握る。
何とか声を絞り出すけれど、返した言葉はどこか自信なさげで、きちんとした返事と言うにはひどく掠れてしまっていた。
「あなたの返事を保留にして、その上時間を欲しいとこんなところまで連れてきた。まずはそのことを謝りたい」
すまない、と言って、ヴィルヘルムは頭を下げる。
アシュリーはそのことに固まり、そして慌てた。
しかし、彼女が口を開く前にヴィルヘルムが畳み掛けるように言葉を続ける。
「きっとすべてを伝えたら、あなたに幻滅されるだろう。だが、このままあなたを諦めることになるのなら、格好悪くてもきちんと話して、俺の気持ちを知ってもらいたかった」
「ライ、ンフェルト副団長……?」
彼の言葉は真剣で、真っ直ぐで、アシュリーは目を逸らせない。心が揺れて、自身も好きだと言ってしまいそうになる。
けれどそれは、だめなのだ。