転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 アシュリーは痛む胸を押さえながら、首を横に振った。

「お気持ちは、本当に嬉しいのです。ですが例え、話を伺っても、わたしの気持ちは変わりません」
「……その理由を、聞いてもいいだろうか」

 尋ねられて、アシュリーは言葉に詰まる。
 そしてひとつ呼吸をしてから、答えを口にした。

「先日両親から、婚約の話が来ていると話がありました。……恐らくこの件は、進める形になるでしょう」

 ヴィルヘルムが息を飲んだような気がした。
 顔を見られなくて、アシュリーは目線を下に落とした。

「そうなれば、わたしにも婚約者ができます。お相手の方はどうかわかりませんが、少なくともわたしは、例え遊びでも──婚約者以外の男性と同時に付き合うことは、できません」

 この世界にきちんと順応できていれば、こんなに難儀なことを考えなくても良かったのだろう。そうすれば、結婚したくないなんて我儘を言って両親を困らせることもなかった。
 けれどどうしても譲れなかった。

 ヴィルヘルムの話を断る言い訳として婚約の話を持ち出したけれど、この話だって今後破談になる可能性は十分にある。
 何故ならアシュリーはもう生娘ではない。そのことを厭う相手であれば、婚約の話を白紙にすることを望むだろう。
 アシュリーには勿体ないぐらいの縁談だった。貴族令嬢としては自分は少し……いやかなり、枠を外れていると自覚はしている。だから白紙にされたとしてもやむを得ないのだ。

 ──それに、好きな人から一夜の夢を貰うことができた。悔いはない。

 自分にそう言い聞かせて、アシュリーは頭を下げた。

「それが、ラインフェルト副団長の告白を受けられない理由です。ごめんなさい」

 静かにアシュリーの言葉が部屋に響く。
 ヴィルヘルムがどんな顔をしているのか見られなくて、アシュリーは顔を上げられない。

「……そうか」

 静寂の中に、ヴィルヘルムの頷きの言葉が落ちる。
 きっと話をする価値もないと思われたのだろう。そう思うとアシュリーの胸が痛んだ。

 ──このままここにいたら、泣いてしまいそうだ。

 アシュリーは何とか顔に笑みを貼り付けて、退室を望む言葉を口にしようとした。
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