転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
「なら次は、俺の話を聞いて貰えるだろうか。……空回りばかりした、臆病な男の話だ」
「え……」
「すべてを話すと言った。あなたには全部聞いて欲しい」

 アシュリーが顔を上げると、ヴィルヘルムは彼女が思っていたよりも、遥かに穏やかな顔をしている。
 けしてその表情に絆されたわけではない。けれど気付けばアシュリーは頷いていた。
 穏やかな中に緊張を含ませていたヴィルヘルムの表情が緩む。そして、静かに彼は話し始める。

「俺が初めてアシュリー嬢、あなたのことを知ったのは、ローウェルに部下だと紹介されたときではない」

 ヴィルヘルムの告白に、アシュリーは目をぱちくりと瞬かせた。

 アシュリーが初めてヴィルヘルムに会ったとき、そのときすでに彼は剣の立つ騎士として名を馳せていて、次期騎士団副団長の呼び声も高かった。
 だから当然アシュリーも、ヴィルヘルムの名前を知っていた。
 対してアシュリーはしがない図書館司書で、ローウェルの部下の間では彼の面倒を見る不憫な子ということで有名だったが、外部にまでその話が届いていたかはわからない。
 ただローウェルと顔馴染みだったヴィルヘルムなら、その話を知っていた可能性はある。
 もしくは貴族の令嬢が自分で働いている場合は訳ありのことがほとんどだ。だから訳ありの令嬢として名前ぐらいは知っていたのかもしれない。
 自分のことを知っている理由としてはそのあたりだろうか、とアシュリーはそう考えたのだが、ヴィルヘルムの話は予想外の方へ進んだ。
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