転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
4-2
 同時に思い出す。その前日に彼の言う場所で本を読んで、泣いてしまったことも。
 ──その日読んでいた本は人に勧められたものだった。だが思った以上に面白くて世界観にのめり込んでしまい、あと残り数ページで訪れる結末が気になったのだ。
 だから休憩を利用して図書館から近い中庭で最後まで読み、そのあまりの優しいハッピーエンドに、気付いたら涙が出てきていた。
 借りた本だったから涙で濡らしたらいけないとすぐに我に返り、涙を拭う。泣き顔をどうにかしなければと慌ててその場から離れたような気がするが、まさかそこをヴィルヘルムに見られていたとは。

「ローウェルの部下として働くあなたは、前の日に見た姿とは違っていた。表情を顰めて呆れた顔をしたり、困ったように笑って、嬉しいときには表情が明るくなる。くるくると変わる表情に目を奪われた」
「……っ」
「あなたの色んな顔が見たい。そのことを自覚したときに、あなたに惹かれているのだと気付いた。結婚したくないがためにあなたが職を得たとローウェルから聞いていたから、気持ちは押し殺すべきだと、わかってはいたのだが……」

 ヴィルヘルムはそこで一度言葉を切って、肩を竦めた。

「わかってはいたが、視線はあなたを追ってしまう。接点を作ろうと、用がないのに図書館へローウェルを訪ねて、呆れられたこともある」

 ヴィルヘルムの言葉に、アシュリーが自身のスカートを握る手の力がより強くなる。

「真剣に仕事をするあなたの横顔に何度も見惚れた。ふとしたときに和らぐ表情が可憐な花が綻んだときのようで、可愛らしいなと思った」

 家族から言われる褒め言葉とは違う。ローウェルから揶揄い交じりに言われる褒め言葉とも違う。
 熱量のこもったヴィルヘルムの言葉に言われ慣れていないアシュリーの顔は林檎よりも真っ赤になって顔が上げられなかった。
< 74 / 96 >

この作品をシェア

pagetop