転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
「あなたが隣りで笑っていてくれたならどれだけ幸せかと、そう思った回数は数えられない。だが、俺と一緒にいて、アシュリー嬢は果たして幸せなのか。そう考えたら、怖くなった」

 やや下がった声のトーンにヴィルヘルムの気持ちが反映されているように聞こえた。

「──だけど、あの男にあなたを取られると聞いて、我慢ならなかった。……結婚したくないと言うあなたにこんな申し出をすれば、軽蔑されるだろう。だが、それであなたの人生をもらえるならば、それでもいいと思った」

 ヴィルヘルムの言葉がアシュリーの頭の中を回る。
 思い当たる節のないことばかりで混乱した。
 あの男にあなたを取られると聞いて?
 結婚したくないと言うあなたに、こんな申し出をすれば軽蔑される?
 それであなたの人生をもらえるなら?
 ──それじゃあ、まるで。
 弾かれたように顔を上げる。真剣な眼差しのヴィルヘルムと視線が合った。

「アシュリー・マクブライド嬢」
「は、い」

 緊張で上手く声が出せない。
 未だに混乱していてどんな解釈をすることが正しいのか計りかねている。けれどそれでもヴィルヘルムの瞳から目が逸らせなかった。
 ヴィルヘルムが言葉の続きを音にする。

「あなたの家に、あなたとの婚約を望む手紙を送ったのは俺だ」

 一瞬呼吸が止まる。じわじわとヴィルヘルムの言葉の意味を理解していく。
 ヴィルヘルムが紡ぐ言葉の節々からアシュリーとの結婚を望んでくれているんだろうなということはわかっていた。
 だがさすがに、すでに求婚されていたとは思わない。

 ただ考えれば、彼の言葉が過去形で話されていることに疑問を持てたはずだ。
 ──否、思わないように、考えないように、していたのかもしれない。
 もしもただの遊びだと知らされたときに、傷付くことが怖かった。

「う、そ」

 辛うじて絞り出した声は、ひどくか細い声だった。
 好きな人が好きと言ってくれて、その上求婚までしてくれていて。嘘、と口にしたのは、信じられないからだ。
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