転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 けれど、こんな不誠実な嘘を吐く人だとは思えないから夢の続きでも見ているのだろうか?

「嘘ではない。ご両親に確認してもらって構わないし、今は手元にないが、やり取りの手紙も残っている」

 ヴィルヘルムの表情を見れば、声を聞けば、彼の言葉が嘘ではないことはわかった。
 嬉しいけれど、それ以上に頭と心が混乱している。
 何を言えばいいのかわからなくて、口を開けたり閉じたりして言葉を探すが、的確な言葉が見つからない。
 だがヴィルヘルムは言葉を急かしたりせず、ただアシュリーの言葉を待っていてくれた。
 夕日の赤が入り込む室内に静寂が広がる。

「あ、の」

 そして、どれくらい経っただろうか。
 やっとのことで言葉を言えるくらいまで混乱が落ち着いたアシュリーは、後れ毛を耳にかけながら口を開いた。

「……ラインフェルト副団長がわたしのことをここまで想っていてくれたなんて思わなくて、まだ戸惑ってはいるのですが、お気持ちは、とても嬉しいです。色々と気遣って頂いていたことも有難く思っています。ありがとうございます」

 僅かでも、笑みを浮かべられているだろうか?
 アシュリーは礼を口にしながら頭を下げ、膝の上に重ねた手のひらをぎゅっと握り込んだ。
 彼の告白を断った理由である婚約の話は、その相手がヴィルヘルムであったことで解決している。
 けれどもうひとつ、婚約する相手に言わなければならなかったことがあった。

 ──ラインフェルト副団長は知らない。あの夜彼に身を任せた《シェリー》と言う名の令嬢がわたしだと言うことを。

「ですが、やはりわたしは……お気持ちには、答えられません。ラインフェルト副団長の隣りに立つには、相応しくありません、から」

 怖くて目を合わせられず、アシュリーの視線は下に落ちる。
 目尻がじわりと熱くなってくるけれど、ここで泣くべきではないとアシュリーは自分に言い聞かせた。
 言うべきではないのかもしれない。
 彼の言葉を受け取って、婚約して、結婚して……アシュリーが狡猾な娘であればきっとそうしただろう。
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