転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 今ここで言わなければ、この体がすでに清いものではないことを知られることはないかもしれない。
 それにヴィルヘルムだって、《シェリー・ダンフォード》をその腕に抱いている。
 そのことをふと思い出して、アシュリーはくちびるを噛んだ。自分が変装していた姿とは言え、ヴィルヘルムにそう言う対象として見てもらえた彼女に嫉妬するなんて、ひどく醜い。
 けれど、言わなければアシュリーは後悔するだろうと思った。ヴィルヘルムを騙して手に入れた幸せでは罪悪感の方がきっと勝る。
 両親には怒られるだろう。ラインフェルト家との縁談ならば良縁としか言いようがない。縁を切られても仕方がない。
 そして何より、この話を伝えたらヴィルヘルムとは元の関係には戻れない。
 覚悟していたことなのに、苦しくてたまらない。

「……わたし、は」

 呼吸をして、今度こそ、覚悟を決める。
 ──仕事を辞めて、修道院に入って、……この人の前から姿を消そう。

「わたしはもう……純潔では、ないのです」

 頬を笑みの形に作って必死に笑おうとしたけれど、上手く笑えなくて、声も震えてしまう。
 ヴィルヘルムが息を飲んだのがわかって、早くこの場から逃げ出してしまいたいとアシュリーは思った。

「ですからわたしなんかではなく、ラインフェルト副団長に相応しい方を見つけてください。……申し訳ございません」

 あまりに強く握り過ぎて、膝の上のスカートに皺が寄った。

「それでは、わたしはこれで……ごめんなさい……」

 ヴィルヘルムの反応を知るのが怖くて、アシュリーは立ち上がってこの場から去ろうとする。
 けれど、ソファーから立ち上がって逃げようとしたアシュリーを引き留めたのは、ヴィルヘルムだった。
 伸びてきた大きな手がアシュリーの華奢な手をしっかりと掴み、彼女が逃げようとするのを阻む。
 引き留めているのがヴィルヘルムだということはわかっていたのに、反射的にアシュリーは視線を上げてしまった。
 そして目に映った彼の表情に、彼女は目を見開く。
 上げた視線の先にいたのは、顔を見る見るうちに真っ赤に染め、口元を手のひらで覆ったヴィルヘルムの姿だった。
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