転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 ローウェルは確か、話をして欲しくて場を設けたと言っていた。ならば──。

「初めから、知ってたんですか……?」

 ならば、ヴィルヘルムも最初から知っていた可能性も十分にある。
 頭を過ぎった予感にアシュリーの瞳が揺れた。
 恐る恐る、声を絞り出す。
 だが、ヴィルヘルムはアシュリーの問い掛けに考える間もなく首を横に振った。

「いや、ローウェルと……話を聞いていたらしい殿下はご存知だったが、ジェラルドと俺は何も知らされていない。だからあいつの隣に別人に成りすましたあなたの姿があったときには、驚いた」

 そう言ってヴィルヘルムは僅かに眉根を寄せる。
 どうしてそんな険しい顔をするのか。その理由を問い掛けるより先に、ヴィルヘルムは言葉を畳み掛けてきた。

「例え髪や瞳の色が違っても、いつもと雰囲気が違っても、あなたのことを見間違えるはずがない」

 ふ、と頬を緩めたヴィルヘルムがアシュリーを情熱的な目で見つめてくる。

「ローウェルにも、揶揄(からか)われた。どれだけあなたのことを見ているのかと。だがまさか一目見た瞬間に《シェリー・ダンフォード》が《アシュリー・マクブライド》嬢だと見抜くとは、思わなかったらしい」

 ヴィルヘルムの言う通り、あの日のアシュリーは髪の色も目の色も異なっていたし、ドレスの形や色合いは、普段彼女が好まないようなものを身に付けていた。
 言葉遣いや雰囲気も変え、ローウェルの隣に立っているのが、アシュリー・マクブライドが変装した姿だと気付かれないように努力をして。
 人間は不思議なもので、容姿が普段と違っていると、イコールで結び付けることを止める傾向にある。
 加えてアシュリーがあまり華やかな場に出ていなかったことも功を奏したのだろう。
 シェリーがアシュリーだと気付かれた様子は、今のとろはなかった。
 ……ヴィルヘルムの、つい今し方の告白までは。

「最初から……ラインフェルト副団長には、気付かれていたんですね」

 ぽつりと、アシュリーのくちびるから呟きが溢れる。
 言葉にしたことで事実を咀嚼しやすくなって、知られているのだから、もう気張らなくていいんだと思うと、肩の荷が少し下りた気がした。
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