転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 張っていた糸がぷつりと切れて、気が付いたら緩んだ涙腺から溢れた涙がアシュリーの頬を伝っていた。

「……っ」

 言葉を繕わなければと思うのに声が出ない。
 節くれ立ったヴィルヘルムの手が戸惑いがちに伸びてくる。指先がそっと頬に触れ、伝う涙を拭った。

「……アシュリー嬢」

 優しい声が、アシュリーの名前を呼ぶ。

「あ……ごめ、なさ……」
「謝るのは、俺の方だ。きちんと話さなかった所為で、あなたをここまで悩ませてしまった。すまない」

 彼の所為ではないと首を左右に振って否定すると、ヴィルヘルムは僅かに笑みを浮かべてくれた。
 泣き顔まで晒して、呆れられていてもおかしくないと思ったけれど、見つめてくる瞳はひどく優しく、そして決意を秘めていた。

「アシュリー・マクブライド嬢」

 はい、と返事をしたつもりだったけれど、うまく音にならなかった。

「改めて、言わせて欲しい。俺はあなたを愛している。あなたを妻にもらえる願いが叶ったなら、この命が尽きるまで……否、尽きても、あなた以外を愛すことはないと誓おう。だから婚約の件、前向きに考えてくれないだろうか」

 告げられた告白と、思ってもみなかった求婚の言葉に頭の中がいっぱいいっぱいだ。やっとのことで言葉の意味を理解して、ぽろぽろと新たな涙が溢れてきた。
 戸惑いがちに触れていた手のひらに頬を包み込まれる。そしてヴィルヘルムの親指がそっと、涙が伝う目尻を拭った。

「……わたし、で、いいんですか……? だって、わたしは……」

 その先の言葉は、すぐには口から出てこなかった。

「あ、あんなはしたないことを……強請るような女、なんですよ……」

 勢いを付けて言ったつもりが結局蚊の鳴くような声になってしまった。
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