転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
「ヴィルヘルムは、口は上手くないし、肝心なところで抜けてたり、言葉が足りなかったりするところもあったり、堅物なのにむっつりで、顔はいいから言い寄られることもあるかもしれないけど、本当にアシュリーちゃんしか見えてないから愛人を作る心配はないし、安心して嫁ぐといいよ」
「……っ」
「あれだけ完璧に変装させたのに一目で見抜くし。愛されてるね、アシュリーちゃん」

 畳み掛けるように言われて、アシュリーは熱が出てきたような錯覚すら覚えた。顔が熱くて、上げられない。

「ボクは神サマって奴を信じてはいないし、いたとしてもボクを転生させた理由は気まぐれだったんだって思ってるけど、アシュリーちゃんの場合は、ヴィルヘルムと出会うために、二回目の人生を神サマが与えてくれたのかもしれないね」

 くるりとペンを回しながら、ローウェルはしみじみと言う。その言葉が意外で、アシュリーはおずおずと顔を上げた。

「婚約おめでとう、アシュリーちゃん。……幸せになるんだよ」

 ローウェルはアシュリーと目が合うと、そう言ってどこか寂しげに笑った。
 ぱちくりと瞬きをしたら、次の瞬間にはその寂しさの色は消えていた。
 けれど見間違いでは、ないだろう。
 きっとアシュリーも同じ転生者であるローウェルが先に結婚すると聞いたなら、少なからず寂しさを感じたはずだ。

「ありがとう、ございます」

 震える声を誤魔化すためにそう言って頭を下げる。
 何だかんだで一番世話になった人だ。そのローウェルから言われた祝いの言葉に、少しだけ泣きそうになってしまった。

「と言っても、特別に祝儀は弾まないし、披露宴で恋のキューピッドとしてスピーチは読めないから宜しくね」
「心配されなくてもご祝儀は期待してませんし、披露宴でスピーチを読んでもらうつもりもありませんので安心してください」

 すかさず突っ込むと、ローウェルは悪戯っぽい笑みを浮かべて、こちらを見ていた。
 恐らく、湿っぽい空気になったことを察して話を変えてくれたのだ。お陰で込み上げてきた涙はすっかり引っ込んでしまった。
 ローウェルはアシュリーと目が合うと、話は終わりだと言わんばかりにすでに握られていた新たな書類に視線を落とす。
 ペンを持った手をひらひらと振られたので、アシュリーは「失礼します」と頭を下げると室長室を出た。
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