転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 ひっそりと置かれたベンチには、その横に植えられた大樹の影が覆い被さっている。アシュリーがベンチに座ると、ちょうど木陰になっていて過ごしやすかった。
 さわさわと葉が擦れる音がする。
 背もたれに背中を預けて、ぼんやりと青空を見上げる。

 ──これだけ天気が良いなら、何か読む本でも持ってくれば良かったかも。

 そんなことを思いながら、先ほど食堂で受け取った小ぶりのバスケットからクロワッサンを取り出し、口元へ運ぶ。
 そして齧り付こうとしていたら乱れた足音が聞こえてきて、廊下の方へ続く通路から端整な顔立ちの青年が顔を覗かせた。
 陽の光に照らされた金色が眩しい。陳腐な言葉だろうが、驚いたようにアシュリーに向けられた碧眼は宝石と見間違うばかりに美しい色をしている。
 真っ白い騎士服は、王太子付きの者にのみ与えられる正装だ。

 王太子の近衛騎士に会う機会は、アシュリーには滅多にない。
 けれど一度だけ、あの夜会の日に彼とは顔を合わせている。すぐに視線を逸らしてしまったが、これだけ目立つ容姿をしていれば、忘れられるはずはない。
 彼は王太子付きの近衛騎士、ジェラルドだ。
 名前と容姿、彼の噂についてなら、アシュリーもよく耳にしていた。
 お互いに目を合わせたまま固まって、しかしすぐに甲高い娘の声がそう遠くないところから聞こえてくると先に我に返ったのはジェラルドの方だった。
 戸惑いなくこちらに近付いてきたと思ったら、アシュリーの背後にある大樹の陰にさっと隠れる。
 戸惑うアシュリーがジェラルドに視線を向けると、申し訳なさそうに片手を顔の前に立て、「ごめん」のポーズを作った。
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