転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 直後、鮮やかなドレスを着た令嬢がアシュリーの視界に映る。

「もう、ジェラルド様ったら足がお早いんだから。どこへ行ってしまったのかしら」
「この先には図書館しかありませんし……もしかしたら殿下のご命令で、ローウェル様のところに行かれているのかもしれませんわ」

 そう話しながら、数人の少女がアシュリーの視界の先──廊下をヒールの音を立てながら歩いていく。
 このまま、こちらには気付かずに通り過ぎてくれればいい。そんな願いを込めたアシュリーだったけれど、現実がそう上手く行くはずがなく。
 彼女たちのうち、ひとりの視線がベンチに座っているアシュリーに向いた。そのことで他の娘たちの視線も集めることになり、その迫力に思わず肩を揺らしてしまう。

「そこのあなた、ジェラルド様がこちらにいらっしゃらなかったかしら」

 問い掛けられて、アシュリーはぎくりとする。
 恐らく彼女たちの家の方が爵位は上だろう。それは遠目でも、身に付けているドレスの豪華さを見ればわかる。
 女性を敵に回すのは恐ろしい。それはアシュリーが前世でも今生でも共通して知っている事実だ。
 けれど脅されたとは言え、ジェラルドに了承の返事をしてしまったので彼を裏切ることはできない。
 ただ理由はそれだけではなく、彼が浮かべた安堵の表情を思い出し、この場を何とか誤魔化そうと、アシュリーは口を開いた。

「ジェラルド様、ですか? ……ええと、さっき図書館の方へ向かって行った方がいたんですが、その方でしょうか? ごめんなさい、ぼーっとしていたので顔まではきちんと見ていなくて……」
「その方は白い騎士服を着ていて?」
「……いたと、思います……けど」
「そう」

 アシュリーの返事に彼女たちは顔を見合わせた。そしてもう興味がないと言わんばかりに、床と擦れ合うヒールの音を響かせながら図書館の方へ早歩きで去っていった。
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