転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 足音と彼女たちの声が聞こえなくなって、アシュリーは肩の力を抜くように大きく息を吐く。

「……俺を匿ったことが知られたら、痛い目を見るのは君の方だ。それでも、知らないふりをしてくれたのはどうして?」

 一見甘く聞こえるけれど、漂う雰囲気はけして甘いものではない。そのことを感じ取ったアシュリーはただ、その問い掛けにだけ淡々と答えた。

「誤魔化さないと、ヴィルヘルム様とのことを城中に話すと脅してきたのはジェラルド様です。……逆らえる余地はありません」
「そうだね。だけどそれだけじゃ、体を張る理由としては少し弱いんじゃないかな。例えば──」

 背後から回ってきた手がアシュリーの顎を掴む。そして、覗き込んでくるジェラルドと目を合わせるように顔を横向きにされた。
 ふわり、と甘い香水の香りが鼻を擽る。

「俺の気を引きたくて、匿ってくれたとか」

 僅かに桃色がかった、きらきらと光る金髪。近くで見ると、碧眼の鮮やかさがよくわかる。その縁を覆う睫毛は長く、羨ましいぐらいに綺麗な肌。
 この美貌なら、令嬢たちから人気だと言うのもよくわかる。
 確かに一瞬ドキッとした。これだけの顔の良い異性に顔を覗かれれば、きっと誰だってそうなるはずだ。

 だけど、それだけだ。アシュリーが好きなのはヴィルヘルムだけなのだから。
 それどころか試すような目の色に、言葉に──ただでさえ関わりがなく皆無だった好感度が駄々下がりだ。
 匿わずに、そのまま彼女たちに居場所を教えてしまえば良かったと思うぐらいに。
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