【執着兄弟の溺愛シリーズ】エリート救急医は契約結婚した妻を極上の執着愛で囲い込む
 それから、話はあっという間に進んだ。  
若菜と祖母に結婚することを打ち明けると、ふたりは驚きを露にした。
『お姉ちゃんってば、いつから彼氏いたの!?』
若菜にはあれこれ質問攻めにあった。
その反応も無理はない。氷室さんとは契約結婚でお付き合いしていた期間はないのだから。
驚いたことに、氷室さんは祖母と妹がふたりで暮らすマンションまで用意してくれた。
業者まであらかじめ手配してくれたお陰で、引っ越しもスムーズに進んだ。
アパートのオーナーの山田さんにお菓子を持って今までのお礼を伝えに行くと、山田さんからは強い引き止めにあった。
『アパートは無償にするよ。だから、引っ越すなんて言わないで』
けれど、もう引っ越し先も決まり荷物も運び出したと告げると酷く落胆しつつ『元気でね』と言葉少なに送り出してくれた。
二人が新しく暮らし始めたマンションは今までのアパートとは比べられないほど綺麗な駅近物件で、バリアフリーも整っている。以前のアパートはあちこちに段差があり、高齢の祖母が転ばないかとヒヤヒヤすることも多かったがその点は安心だ。
二人の引っ越しと同時に、私は荷物を整理して彼のマンションに運び込んだ。
氷室さんの暮らすマンションは妹と祖母が暮らすマンションから歩いて五分ほどの距離にあり、何かあればすぐに駆け付けられる。
『ねえ、お姉ちゃんの彼氏にお礼を言いたいから、直接会わせてよ』
『今は忙しいみたいだから、今度ね』
 若菜にしつこく何度もせがまれたものの、やんわりと理由をつけて断っている。
契約結婚すると決まったものの、私と氷室さんは気軽に連絡を取り合うような仲ではないのだ。
 入籍前に同棲を始めてからも、救急医の彼の仕事は忙しくすれ違いの日々が続いた。
顔を合わせることは滅多になく、まるでシェアハウスに暮らしているような感覚に陥る。
 そして、出会ってから約一か月後の六月十九日。
快晴のこの日、役所に婚姻届を出して私と氷室さんは晴れて夫婦となった。
 役所から出ると、私は彼の後を追うように白い海外製のSUV車の助手席に乗り込んだ。
「忙しいのに抜けてきてもらってすみません」
 婚姻届はお互いに記入済みで後は出すだけの状態だったが、何故か氷室さんは十九日に揃って出しにいくことに強いこだわりを持っていた。
 とはいえ、氷室さんは仕事の休みを取れず、昼休憩の時間を使用して外出し、婚姻届を提出した。
「いや、むしろ午後に半休を取らせて悪かったな」
「それは全然です。院長もみんなも祝福してくれたので」
 午前の診療が終わり帰ろうとする私を病院スタッフがゾロゾロと囲み、結婚祝いとして赤と青のマグカップをプレゼントしてくれた。
 私達ふたりが出会うキッカケを作ってくれた院長だけでなく事務員の鈴木さんや古関さん、それに看護師たちは『おめでとう』と温かく送り出してくれた。
 そこへ氷室さんが私を車で迎えに来てくれた。
手土産を手に現れた氷室さんにスタッフたちは大興奮していた。
『ちょっと、イケメンすぎない!』
『お医者さんなんでしょ⁉ 素敵!』
騒ぐのも無理はない。私もいまだに彼の整った顔は見慣れず、目が合うだけでもドキドキして緊張してしまう。
氷室さんは一言二言院長と言葉を交わし、深々と頭を下げて何やら感謝を伝えていた。
「君はたくさんの人に愛されているんだな」
 氷室さんは後部座席の紙袋に目をやる。
「診療所の皆さんには良くしてもらって本当に幸せです」
「そうか」
 氷室さんには結婚するにあたり、仕事を続けるかどうか問われた。
『仕事を続けるも辞めるも君の好きにしてもらって構わない。もし辞めても、金銭的なことは心配しなくていい』
氷室さんにはそう言われたものの、私は仕事を続ける選択をした。
 契約結婚とはいえ、全てを氷室さんに甘えようとは思っていない。妹と祖母への援助はこれからも続けるつもりだ。
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