【執着兄弟の溺愛シリーズ】エリート救急医は契約結婚した妻を極上の執着愛で囲い込む
「あの、氷室さん。本当にご両親にご挨拶にはいかなくていいんですか?」
 婚姻届を出す前に結婚を許してもらうために彼のご両親へ挨拶に行った方がいいのではないかと訴える私に彼は『必要ない』と拒んだ。
「俺はもう三十三で子供ではない。結婚する相手は自分で決めるし、親にとやかく言われる筋合いはない」
「そ、そうですか」
 きっといくら私が説得したところで氷室さんは首を縦には振らないだろう。彼の頑なさに私は心の中で苦笑した。
「ありがとうございました」
 役所からマンションまで車で送ってくれた氷室さんにお礼を言う。
「ああ、じゃあ」
 彼は事務的に告げ、車をUターンさせて病院へとんぼ返りした。

 入籍をしてからも、彼は日々仕事で忙しそうにしており、私達の関係には何ら変化はなかった。
 そんなある日、マンションの管理人さんから住民総会のお知らせを渡された。
 一応氷室さんに知らせておいたほうがいいと考えてはいたが、彼は仕事を終えて自宅に帰って来てもリビングでだらけることはない。さっと夕食を済ませて風呂に入ると、書斎にこもってしまうのだ。
 結婚する前『俺の食事は作らなくていい』と言われたため、食事はバラバラの時間に摂っているから話をするタイミングもない。
 私と氷室さんは契約結婚だし、お互いの距離を縮める必要はない。
それに、彼には愛する人がいるし、私は彼にとって仮初の妻だ。このまま冷え切った夫婦関係が続いていくのだろうと予想がつく。
とはいえ、一緒に暮らす以上は共有しなくてはならない情報もある。
 申し訳ないと思いながらも、私は総会のお知らせを手に彼の書斎のドアをノックした。
「氷室さん、少しいいですか……?」
 部屋の電気は点いているのに返事がない。
「失礼します」
 もう一度ノックして声を掛けてから部屋の扉を開けると、氷室さんは私に背を向けるようにデスクに座って本を読んでいた。
おずおずと彼に近付いていくと、チャコールグレーのルームウエアを着た彼は分厚い医学書を真剣な表情で読み込んでいた。
ずいぶん勉強熱心だな……。
 一緒に暮らし始めたことで氷室さんの救急医としての熱意を間近で感じられるようになった。
 長時間の勤務の後にも関わらず、今もなお医師としての努力を怠らないなんて。
 医師として仕事に向き合う熱量の大きさに驚かされると同時に、尊敬の念が湧き上がる。
 初めて顔を合わせた日も、貧血で倒れる女性を前に氷室さんは医師としての顔を覗かせた。彼が日々、救急医として真摯に患者に向き合っているのだと思い知らされるようだった。
「あのぅ、氷室さん」
 近付いて行き声を掛けるも反応がない。
「氷室さん?」
 仕方なく肩をポンッと叩く。
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