【執着兄弟の溺愛シリーズ】エリート救急医は契約結婚した妻を極上の執着愛で囲い込む
「仕事が終わった後に特に予定はないので大丈夫です。その日、開けておきます」
「いや、待て。さっきも言ったが、あれは総会という名の飲み会だ。負担になると思うし、無理して参加する必要はない」
「ですが、他の住民の方との親睦を図るいい機会だと思うので」
 引っ越してきてから一応隣近所にご挨拶に伺ったものの、全員を把握しているわけではない。エレベーターに乗り合わせて挨拶をするぐらいしか交流もないし、顔を覚える絶好のチャンスだ。
「君が参加するなら、俺も一緒に行く」
「え?」
「あんな場に君をひとりで行かせられるわけがないだろう。周りは酔っぱらった男だらけなんだぞ。もし何かあったらどうする? ダメだ、絶対にダメだ」
 氷室さんは眉間に皺を寄せて分かりやすく顔を顰めた。
 その時、ふと気付く。
 氷室さんがここまで私がひとりで参加するのを嫌がるのは、私を信用していないからだろう。
 お酒が入りタカが外れ、私と彼が契約結婚であると周囲に漏らすリスクを恐れているのかもしれない。医師という立場上、周囲の目や世間体を気にする気持ちはよく理解できた。
「……分かりました。もし氷室さんがお仕事の場合、不参加だとお伝えください」
「ああ」
 私の言葉に氷室さんはホッとしたような表情を浮かべた。
「それと、もう結婚したんだ。いい加減『氷室さん』と呼ぶのはやめてくれ」
 彼は真っすぐ私を見つめて言う。確かに私たちはもう夫婦だし、名字で呼ぶのはおかしい。
「じゃあ、えっと……武尊……さん?」
「なぜ疑問形なんだ」
 訝し気に指摘されて急に恥ずかしくなって、自然と頬が赤らんでいく。
 今まで男性とお付き合いした経験がないからどういう呼び方が普通なのか分からないとは言えなかった。
「名字でなければ、俺のことは好きに呼んでくれて構わない」
「分かりました」
 すると、武尊さんはじっと私の目を見つめた。何だろうと首を傾げた瞬間、「小春」と唐突に名前を呼ばれた。
 まるで愛おしい人の名を呼ぶような優し気な声色に心臓が小さく跳ねた。
「俺もこれからはそう呼ぶ」
 武尊さんは堅かった表情をほんの少しだけ緩めて言った。
きっとそれは彼なりの優しさなのだろうと、心の中がじんわりと温かくなる。
 結婚前、武尊さんは私にお互いを利用し合おうと言った。
それを承知の上で結婚したけれど、一緒に暮らすからには夫婦として仲良くやっていきたい。
 それと同時に、彼にとって良き妻でいられるように努力しようと心に決めた。
 
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