【執着兄弟の溺愛シリーズ】エリート救急医は契約結婚した妻を極上の執着愛で囲い込む
「サイズはどうだ?」
「ピッタリです。でも、どうして私の指のサイズを?」
「引っ越しの日、疲れてソファで寝込んでいただろう。その時に測らせてもらった」
 さすがは武尊さんだ。抜かりがないなと感心する。
「指輪、ありがとうございます。大切にしますね」
 キラキラと輝く指輪にそっと触れながら彼にお礼を言う。
「小春に良く似合ってる」
 武尊さんはふっとほんのわずかに表情を緩めた。普段は固い表情を浮かべていることの多い武尊さんの微笑みにドキッと胸が鳴る。
私は彼にとって仮初妻だ。
それなのに、彼は時々こうやって優しく微笑みかけてくる。まるで愛おしい人へ向けるような眼差しを向けられると、胸がギュッと締め付けられたみたいに苦しくなる。
すると、タイミングよく前菜が運ばれてきた。
「どれも美味しいですね」
 目にも鮮やかな料理に舌鼓を打ちつつ何気なく顔を上げて正面の武尊さんに目をやるとバチッと目が合った。
 まるで食事をする私を見つめていたみたいなタイミングだったことに驚く。
「ああ、そうだな」
 武尊さんは余裕気に言う。
 こんなにも素敵な場所で食事をしたことのない私は、自分でも気付かぬうちに気持ちが高揚し浮かれてしまっていたようだ。
 きっと武尊さんにもそれを見透かされてしまったんだろう。 
急に照れ臭くなって彼から目を逸らすと「小春」と名前を呼ばれる。
「結婚してから今日まで、ずいぶんと寂しい思いをさせたな」
目を向けると、武尊さんはどことなく申し訳なさそうに言葉を紡いだ。
「え……?」
 その視線は熱っぽくて、まるで愛おしい人を見つめているみたいだ。
「タイミング悪く学会や論文の執筆が立て込んでいて家にいても書斎にこもっていることが多かっただろう。申し訳ないことをした」
「ああ……確かに忙しそうでしたね」
 武尊さんの言葉の意味が分からず曖昧に微笑む。
「俺と一緒に暮らし始めて不便に感じることはないか? もしあるなら、教えてくれ」
「いえ、ありません。色々気遣っていただいてありがとうございます」
 それは本心だった。
 結婚する前、武尊さんは最低限の家事しかしなかったようだ。食事はもっぱら外食かコンビニ。洗濯は全自動乾燥機付きの洗濯機、掃除は水拭きまでできる最新のお掃除ロボット。
 共働きということもあり、彼は時短家電をフルで活用するようにと私に提案した。もちろん、細々とした家事は気付いた時に行っているが、体力的には楽だ。
「あ……ただ……」
「ただ?」
 私が言い淀むと、武尊さんはぐっと身を乗り出した。
「武尊さんの家にあった包丁の切れが悪くて。研ぎ直してくれる専門店に持ち込もうと思っていたんですが、いいですか?」
 私の言葉に武尊さんは一瞬何を言われたのか分からないという表情を浮かべた後、ふっと柔らかく微笑んだ。
「もちろんだ。俺に許可なく自由にしてもらって構わない」
「よかった……。前から聞こうと思っていたんですけど、なかなかタイミングが合わなくて」
「そうか。気付いてあげられず、すまなかった。あの包丁は長らく使っていなかったし、新しい物を買ったほうがいい。今度の休みに一緒に買いに行こう」
 さらりと当たり前のように言う武尊さん。
 もしかしたら彼なりに同居人の私を気遣ってくれているのかもしれない。不器用な優しさに心の中がじんわりと温かくなる。
「はい。じゃあ、武尊さんの仕事の都合がいい時にぜひ」
「ああ」
 私達は食事をしながら言葉を交わした。
 初めて会った日は武尊さんの反応が薄く会話も一方通行だと感じたのに、今は違う。私との間に隔てていた心の扉を武尊さんはほんの少しだけ開けてくれたようだ。
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