【執着兄弟の溺愛シリーズ】エリート救急医は契約結婚した妻を極上の執着愛で囲い込む
話をしていく中で、私の仕事の話題になった。
「受付は色々大変だろう。うちの病院でも度々トラブルが起こると聞いた。理不尽なことを言うクレーマーはもちろん、事務員が一方的に患者に好意を寄せられて付きまとわれたりしたことがあったらしい。小春は大丈夫か?」
 伊勢海老のポワレを食べながら、武尊さんが言う。
「確かに色々な患者さんがいるので、クレームが入ることは時々あります。でも、好意を寄せられることはもちろん、付きまとわれるなんてことは一度もありません」
「もしかしたら、自分が気付いていないだけかもしれないぞ」
「え……?」
武尊さんの言葉に首を傾げる。
「小春はお人好しだからな。その優しさに付け込もうとする悪い奴もいるかもしれない」
「あ……それ、同僚にも言われました」
 アパートのオーナーの山田さんが来院した日、更衣室で鈴木さんと古関さんに言われたことをかいつまんで武尊さんに伝えた。
すると、武尊さんの表情がどんどん険しくなっていった。
「その山田っていうアパートのオーナーは小春が俺と結婚したことを知ってるのか?」
「いえ、プライベートなことなので直接は伝えていません。それに、私が結婚したと知ったら山田さんに色々気を使わせてしまいそうなので」
「気を使わせる? どういう意味だ?」
 訝しがる武尊さんに、以前から山田さんが私達家族に厚意的に接してくれていたと告げた。自分から打ち明ければ結婚祝いを催促しているみたいで気が引けると話すと武尊さんは苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべた。
「それは厚意じゃなくて、好意だろう……」
「えっ?」
 武尊さんがポツリと呟くも聞き取れなかった。すると、彼は真っすぐ私を見つめた。
「引っ越しを終えた今、小春とオーナーは赤の他人だ。今後、オーナーとの私的な会話は一切不要だ。いいな?」
 武尊さんは嫌悪感を隠すことなく、吐き捨てるように告げる。
 彼がなぜ山田さんに敵意を向けるのか分からない。
「仕事中、指輪を付けていてもいいのか?」
「はい。結婚指輪や小ぶりなアクセサリーは許可されています。同じ事務員の鈴木さんと古関さんも指輪をしています」
「そうか。それなら、小春も指輪を付けたまま仕事をしてくれ。それが、小春が既婚者だという確かな証になる。とにかく、気を付けるに越したことはない」
 一体何を気を付けるのだろうかと不思議だったものの、聞き返すことなく素直に頷く。
「分かりました」
 そんな私を見つめて、武尊さんは満足そうにシャンパンを嗜んだ。
 この日の食事で私達の距離感がぐっと近づいた気がする。
武尊さんは寡黙で表情が豊かな方ではないし、声を上げて笑ったりすることはないけれど、表情の中にちょっとした変化があることに気が付いた。
少しだけ口角が上がったり、声のトーンが和らいだりするのだ。
仏頂面で堅物なイメージは変わらないものの、新たな彼の一面を知り心がポッと温かくなった。
食事を終えると車に乗り込んで自宅のマンションへと車を走らせる。
駐車場に着くと、武尊さんは「先に行ってくれ」と告げ、私に先に行くよう促した。
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