【執着兄弟の溺愛シリーズ】エリート救急医は契約結婚した妻を極上の執着愛で囲い込む
第二章 秘めたる想い~氷室武尊side~
「武尊さん、すみません。少し待っていてもらえますか?」
「ああ」
 小春は立ち上がり、祖母を手伝うためにキッチンに立つ。
 すると、正面に座る若菜ちゃんが胸の前で手の平を組み、俺を上目遣いで見上げた。
「あのっ、武尊さんとお姉ちゃんってどこで知り合ったんですか~? 馴れ初めとか知りたいなぁ~!」
 目を輝かせる彼女のその姿はどことなく小動物を彷彿とさせる。くりっとした茶色い瞳は小春に似ているが、性格は違うようだ。
「ちなみに小春はなんて?」
「それが、お姉ちゃんってば恥ずかしいって言って全然教えてくれないんですよぉ。だから、武尊さんに聞こうかなって」
「なるほど。でも、小春が恥ずかしいって言うなら、俺が話すわけにはいかないな」
「え~!」
 若菜ちゃんは分かりやすく顔を顰めて叫ぶ。
 ふたりの馴れ初めをここで詳しく話すわけにはいかない。
何も知らない小春は俺たちが契約結婚だと、そう信じているのだから。
「小春は昔からああやって家のことをしていたの?」
 俺は祖母と共にキッチンに立つ小春に目を向けつつ、話題を変えた。
「はい。両親が亡くなって、お姉ちゃんが私の親代わりになってくれたんです。今だって仕事で忙しいのに、学校行事には全部参加してくれて。私が肩身の狭い思いをしないようにって中学の時はクラス役員まで引き受けてくれたんです」
 若菜ちゃんは当時を思い出したのか、しんみりした表情を浮かべる。
「でも、ずっとお姉ちゃんに申し訳なく思っていて……。お姉ちゃんが私のためにたくさんのことを犠牲にしてきたって知ってるから。だから、こうやってお姉ちゃんが武尊さんと結婚してくれて私もおばあちゃんも本当に嬉しくて」
 俺は小さく相槌を打ちつつ、小春に目をやった。 
「おばあちゃん、これ盛り付けてもいい?」
「ん、なぁに?」
「こーれ、もう盛り付けしても大丈夫?」
 祖母に聞き返されても嫌な顔ひとつせずに優しく返す小春。家族愛に溢れる心優しい彼女の姿を目の当たりにして、改めて胸が熱くなる。
「武尊さん、お願いします。お姉ちゃんのこと絶対に幸せにしてあげてください」
 切実そうなその表情からは姉の小春への確かな想いが伝わってくる。
「ああ。小春は俺が必ず幸せにする。約束するよ」
 こんなこと、本人に直接言ったことはない。まだその段階にはないからだ。
 けれど、いつか……彼女にもそう伝えられたら……。
「お姉ちゃんの結婚相手が武尊さんでよかったです」
 俺の言葉に若菜ちゃんは安堵したような表情を浮かべた。
 しばらくすると、テーブルが埋まるぐらいのご馳走がズラリと並んだ。
 唐揚げや筑前煮などはすべてお祖母さんの手作りだと言う。昨日から仕込んでくれている料理もあると聞き、俺は感謝しつついただくことにした。
「お口に合うかしら?」
「はい。どれもすごく美味しいです」
 家庭的な味に舌鼓を打っていると、「そういえば」と若菜ちゃんが切り出した。
「お医者さんって内科とか外科とか専門って色々あるじゃないですか? 武尊さんはどうして救急医になろうと思ったんですか?」
 確かに救急医は特定の臓器を専門にするわけではなく、救急車で運ばれてきた患者の緊急度を見極めて総合的な判断を下して処置するのが仕事だ。
「実は小学生の頃、頭を怪我して救急車で運ばれたことがあるんだ」
 友達と公園で遊んでいた時に怪我をし、すぐに親が救急病院へ連れて行ってくれた。ズキズキとした激しい痛みに見舞われ、まだ子供だった俺はこのまま死んでしまうのではないかという不安でいっぱいだった。
 病院に着いてからも血は止まらず、パニック寸前の俺はすぐに処置室に運び込まれた。
そこへ現れたのが救急医だった。扉が開き、颯爽と現れた救急医から『よく耐えたな。もう大丈夫だぞ』と力強く言われた瞬間、驚くことに不安が一気に消え、胸に安堵感が広がった。
 幸い大事には至らず、傷口を数針縫っただけで帰宅できることになった。
 けれど、その出来事は自分の人生観を揺るがした。
 自分もあの時の医師のように、助けを求めている患者を救いたいと思った。
それをキッカケに救急医に興味を持ちはじめ、高校卒業後は海外の大学に進み医療を学んだ。そして、三年前に帰国して現在の御門総合病院で救急医として働いている。
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