【執着兄弟の溺愛シリーズ】エリート救急医は契約結婚した妻を極上の執着愛で囲い込む

「またふたりで遊びに来てくださいね~!」
 午後三時頃、俺たちはお祖母さんと若菜ちゃんに見送られて家を後にした。
 車に乗り込むと小春はちらりと俺の顔を覗き込んだ。
「忙しいのに今日はありがとうございました。武尊さん、疲れてませんか?」
 体力には人一倍自信があるし疲労感はない。とはいえ、小春や家族の前でうっかり余計なことを口走ってしまわないようにと神経は使った。
 もしも知られてこの関係を終わりにするようなことが起こるのは絶対に避けたかった。
「いや、小春の家族にきちんと挨拶ができてよかった。それよりまだ早いし、どこかへ行かないか?」
 俺の言葉に小春がぱっと表情を明るくする。
「いいですね! どこへいきますか?」
「どこか行きたい場所は?」
 尋ねると小春は「あっ」と何かを思いついたように声を上げた。
「行きたい場所があるんだな? どこだ?」
「い、いえ。私はどこでも大丈夫なので、武尊さんの行きたい場所へ行きましょう」
 遠慮がちに微笑む小春。彼女はいつだってそうだ。自分の意見は二の次で相手に合わせようとする。そんな優しいところは彼女らしいが、俺と一緒にいる時ぐらいはワガママを言って欲しい。
「ちなみに、頭に浮かんだのはどこだ?」
「えっと……国立公園内にある渓谷です。この間テレビで見て川の水が澄んでいてとっても綺麗で。でも、この時期だし暑いと思うので――」
「そこに行ってみよう。渓谷ならきっと涼しい」
 俺は小春に有無を言わさず、スマホで調べた住所をナビに打ち込んだ。
「本当にいいんですか?」
「ああ。俺も行って見たい」
『小春が行きたい場所なら』と心の中で付け加えた後、俺は車のハンドルを握り、目的地へと車を走らせた。
 渓谷へは一時間弱ほどで到着した。
 駐車場はいっぱいで視線を左右に振りながら空いている場所を探す。助手席に座る小春は身を乗り出してキョロキョロと辺りを見渡している。
「あ、あそこが空きました!」
 指を差した方向へ車を走らせる。こういうところにも彼女なりの気遣いを感じる。小春のお陰で、無事に車を止めることができた。
「わぁ」
 車を降りるなり、小春は辺りを見渡して感嘆の声を漏らした。
周囲を木々に囲まれているためか、空気が澄んでいて都心よりも涼しく感じられる。
 渓谷には全長百メートルほどの歩行者専用のつり橋がかかっている。早速そこへ向かおうと歩き出すが、お盆時期なこともあり人が大勢いた。
「やっぱり混んでますね」
「そうだな」
 俺はすかさず小春の左手を取った。
「武尊さん……?」
 小春は驚いたように俺を見上げる。
「はぐれたら困るだろ。少しだけ我慢してくれ」
「は、はい」
 小春は何の疑いも持たずに頷く。けれど、それは手を繋ぐための口実だった。
< 28 / 72 >

この作品をシェア

pagetop